TVアニメ「響け! ユーフォニアム」第10話までの感想
おれ、七月になったら「響け! ユーフォニアム」の原作読むんだ。
以下、アニメのみ10話までネタバレありの感想です。
面白い。素晴らしい。
2015年の春は、おれにはきっと「響け!! ユーフォニアム」を放映していた季節として、記憶に残るんだろうな、と思っている。
原作を読んでないんでハラハラしながら見ているんだけど、正直ストーリーラインに奇抜さがあると思わないし、そういう方向の期待もしてない。
例えば再オーディション、勝つのは明らかに高坂さんでしょ。
おれは想像する。みんなが高坂さんがソロを吹くのが納得いかないのは、練習中に聞きくらべても、中世古先輩より優れているとはっきりわからないからなんだろうけど、ここで滝先生が音楽室に毛布敷かせていたことが、大きく伏線として意味を持ってくるんだよ。
ホールの音響効果が予想以上に大きな要素になるんだと思う。その広漠たる箱を満たして鳴らす、その技術の問題になった時、高坂さんはおそらく桁違いにすごい。素人でも明らかにわかるほど、中世古先輩を圧倒しちゃうんだと思う。
無論、吉川優子ことデカリボンちゃん(逆)にも、その優劣はどうしても目を背けられないほどわかってしまう。
ここで彼女がどうするかが、最終回あたりの見せ場なんだろうと、おれは想像する。
おれの想像では、多分、デカリボンちゃんは去年の新入部員のうち、やる気があって三年生に睨まれながら、それでも辞めなかった希少な一人なんだと思う。気楽で呑気で自堕落な仲良し部活動に飽き足らず、より良い音楽を追い求める情熱があって、しかしそれが黙殺されて干からびそうな時。
きっと中世古先輩が守ってくれたのだ。
情熱と真剣な練習をともにして、あなたの音楽は間違っていない、と支えてくれたのだ。
そんな中世古先輩は、だから絶対に報われるべきだった。おそらく去年のソロパートを、中世古先輩は、はるかに実力の劣る三年生に年功序列で取られてしまっている。熱く音楽を愛し、正しく後輩を導いた先輩が、いつも情実や依怙贔屓によって踏みつけられるなどあってはならない。いまこそ、正義がなされる時だ。
吉川優子はそう意気込んで、オーディションなど聴く前から中世古先輩に投票するものと決め込んで、あるいは友人たちにも、当然わかってるよね、みたいなプレッシャーをかけちゃったりしながら当日を迎えるんだ。
しかし、その日、音楽に震える。
デカリボンちゃんだってやる気があって、それなりに情熱を持ってやってきた子だ。高坂さんのトランペットを聞けば、彼女が過去の何年もの時間、何を積み上げ、あるいは何を捧げてきたかが、わかってしまう。その重さを、密度を。
いや、それでも中世古先輩は勝つべきだ。
しかし、彼女の中の音楽が叫ぶ。高坂さんのソロはすばらしい、と。
ここで、デカリボンちゃんは、自分の音楽を裏切れるのか。
やはり予定通り中世古先輩に手を挙げようとして、なおも胸の奥から問いが響くだろう。ではなぜ、去年退部しなかったのか。あるいは、やる気のない三年生に追従して、無為の部活動を楽しめばよかったじゃないか。
なんのために部に残った。
中世古先輩は、どうして自分を守り、可愛がってくれたのか。自分の、どの部分を、かばってくれたのか。
ここで音楽への忠実を放棄するなら、去年の三年生と同じじゃないか。それはむしろ、先輩の恩に対する裏切りではないか。
つらくて、くやしくて、みじめで、なさけなくて、わんわんと鼻水垂らして泣き喚きながら、それでも、きっと優子は、高坂麗奈の名前に挙手をするのだ。
とかだったら熱いよな、というのはおれの想像に過ぎないが、なんか多分そうなりそうに思ってる。
それで、デカリボンちゃんが負けた中世古先輩に駆け寄って、謝ろうとして、泣きじゃくって、言葉にならない、というところを先輩が遮って。
やりきった笑顔で先輩は、きっと言うのだ。
「ありがとう」
機会をくれてありがとう。自分を信じてくれてありがとう。
そして、音楽を裏切らないでくれてありがとう。
万感を込めた「ありがとう」を受け取って、デカリボンちゃんがますます泣いて、それを見て困ったように笑っていた先輩もついに耐えきれなくなって泣き出したりする。
というところまで妄想した。
てか、そうなるでしょ。「のだめ」だったらそうなる。「のだめ」じゃねーし。
おれがこんな陳腐そのもののベタ展開を空想しておきながら妙に自信たっぷりなのは、9話がすごかったから。
8話がとにかく問答無用にすごかったんだけど、おれは実は9話見た時のほうがショックだった。サックスのタキガワチカオ君の名前が明らかになるからではない。
あの8話の後でこれかよ、と。地力の違いというか、隙がないというか。
すごいのは、9話って完全に予定調和のストーリー。もう途中で熱心に朝練している中川先輩が映っちゃったら、絶対不合格フラグじゃん。ご丁寧に久美子ちゃんは回想までしちゃうし、もう絶対ダメじゃん。
なのに、そういう「はい死亡フラグ」みたいなチャラけたリアクションを入れられない。息つめてオーディションの緊張に頭に血が昇るような思いをして。久美子ちゃんの名前が呼ばれる、ほっとする、いとまもなく中川先輩の名前が呼ばれない。
ああっ。
と分かりきった展開なのに、おれはなぜかすごくショックを受けてて、これは実にとてつもない作品だと思った。
まぁ、おれがちょろいんだと言えば、そうなんだけど、とにかくおれはこれはすごいと思った。
ベタといってもいい、当たり前の平凡なストーリー。これを奇を衒わず力強く語り直す。そんな表現をおれは尊敬する。
どのカットを見ても、背景のピントの合う範囲がごく狭い感じが、ちょっとTVアニメとしては不思議な感じがしていた。
ちょっとカメラに寄っても、ちょっと離れてもボヤける、この感じが気になって、ググってみたら「被写界深度」という言葉を発見した。撮影のすごく基本的な概念のひとつらしい。おれって本当にものを知らん。
この被写界深度をわざと浅くして、風景写真をまるで精巧なミニチュアを撮ったように撮影するテクニックとかあるんだとか。あ、見たことあるぞ。あれって、そうやって撮っていたのか。
滝昇先生がものすごくいい。
彼の言動は穏やかで合理的、目的は確固として明瞭。淀みない正論を貫き、有言実行の実力を以って感情的反発を沈黙させる。
理想的な大人像だと思う。優しげメガネのルックスや櫻井voiceをもし伴わなかったとしても、おれはキュンキュン言ってたと思う。
にもかかわらず、劇中の高校生どもは、彼を称して「粘着イケメン悪魔」で「意地悪」と言うのだ。おい、当たってんのイケメンだけじゃねーか。
いやぁでも、そっかー、そうだよな。おれは高校生の倍以上を生きてしまって、すっかりおっさんなので子供の気持ちを忘れてしまった。でも、確かに子供の頃だったら、あんな先生と会ったら意地悪な悪魔と思ったかもしれない。
かくも滝先生が、子供たちから遠い。顧問として指揮台に立つ距離から、近づかない。印象的なのは、第4話「うたうよソルフェージュ」の低音パートの指導だ。ていおん!メンバーが教室の後ろの方に陣取ってるのに、滝先生は教卓から指導し続ける。音楽の指導って実際もあんなものなのかもしれないけど、おれには随分象徴的に感じられた。
子供のころの先生って確かにああいう感じで、子供の目からは教師という役割で覆われてしまって、先生であること以外の、人間としての側面にはピントが合わなかったよな、と。なんとなくぼんやりと、大人なんだ、というだけで。
この先生を捉えるピントの甘さが、心理描写の被写界深度の浅さを作り出す。
高校生のある一時期の、ほんの数ミリ分の厚みしかない、断じて大人ならざるうつろいやすい純真のレイヤーをプレパラートにして、逆光の中に輝かせる。
おれはおっさんだが高校生だったこともある。リアルな16歳はもっと雑味があってエグい。もっとしらけてるし、もっと不貞腐れてるし、もっと捻くれてる。
でも、確かに、ほんの薄っぺらい一枚っきりの切片だけど、その純真は屹度ある。
その貴重な一瞬に、こうも安定してずっと焦点を当て続ける、その精度の高さが、このドラマの全てを支えているのだと思った。
そこだけにピントが合っているから、だからベッタベタの展開なのにハラハラする。
だから、全くもって幼稚としか言いようのない高坂さんの「特別になりたい」が上滑りしない。翻って夜景を透かす白ワンピースのスカートの、刹那の青春の美。
だから、葉月ちゃんがいくら「私、最悪な女だよね」と言おうと、全然、女の汚さってものを感じない。みどりちゃん巻き込んだのもただ心細かったからだけでしょ。久美子ちゃんに言ったのも、ただ仁義通しただけでしょう。
だから、我らが勇敢なチビのジョー・ストラマーが「命がけです」と安い言葉使ったって、音楽への情熱が軽くなったりはしないのだ。
スポ根はやっぱりいいよなぁ。
「ハイキュー」以来の熱さである。
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