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« 明日、ママがいない 感想 その2 | トップページ | 我知らず、雪ノ下雪乃はわかるものだとばかり思っていた。(後) »

2014年4月 7日 (月)

我知らず、雪ノ下雪乃はわかるものだとばかり思っていた。(前)

9巻は4月18日だそうですね。

原作者先生のお体を考えるともう少し休んでいただきたいような。それでいてやはり早く読みたいという気持ちも抑えられず。

ガガガの公式HPに9巻のあらすじ出てた。なんかクリスマスがらみでハッピーエンドフラグびしびし立っている感じでホッとしますな。

最後はみんなでクリパだ!ってところでヒキ、くらいまであるね。それでクリパのシーンは11巻のボーナストラックだ。ドラマCDも同梱されて、11巻発売と同時にアニメ二期の製作発表だよ、きっと。

……夢は、見るだけならタダだからな。

 

そんなこんなで、9巻で打ち砕かれるために、いま敢えて妄想を形にしてみた。

8巻の例のシーンの雪乃視点という感じで。

 

────────────────────────────────────────────────

────────────────────────────────────────────────

簡潔な挨拶を交わして、お互いの分の紅茶を入れてしまうと、もう何も口を開くことが出来ない。

部室にぎこちない沈黙が降りた。

由比ケ浜さんと二人きりの部室は、久しぶりだった。

視界の外で、由比ヶ浜さんがもじもじと身をよじる気配がしている。

おそらく彼女には話したいことがあるはずだ。

それは私も同様だった。

しかし、私の方から話しかけることが出来ない。視線を向けることさえ難しかった。

思えばこれまでもいつもそうだった気がする。いつも、動き出すのは彼女で、私はただその流れに乗るだけで良かった。

今日、私はいつもなら開く読みさしの本を、あえて閉じたままに座っている。そんな姿勢で、会話を拒む意図がないことを示してはいる。

しかし、その程度のことでなにが伝わるはずもない。自分の対人的なコミュニケーション能力の拙さに我ながら歯噛みするほどの怒りを覚える。

時間は容赦無く、無為のまま進んで行く。

じきに彼も来てしまうだろう。

由比ヶ浜さんとはクラスが違う。二人きりで話せるチャンスはあまりない。気ばかり焦るが体は動いてくれなかった。

雪ノ下雪乃、いま為すべきことを為しなさい。

居丈高に自分に命じても、この頑固な子供はふてくされたように座っているだけだ。

これが彼ならば。

なんだかんだと文句や皮肉を言いながら、それでも何かできることを見つけ出して、不完全でも、見当違いでも、不実なその場しのぎに過ぎないとしても、何かをしてくれるだろうに。

『そうやって誰かにやらせたり押し付けるの、お母さんそっくり』

姉のせせら笑う声がすぐ耳元で蘇る。頭を振って振り払いたくなる衝動を堪えて、ただ唇を噛むしかなかった。


そんな長いような短いような、沈黙の向こうに。

聞き慣れた足音が廊下を近づいてくるのが分かる。

覇気のない歩調は猫のように柔らかいが、意外と足は速い。間もなく部室の引き戸を静かに開けてその男は入ってきた。

細身の長身の背を丸くして、不吉な陽炎のようにゆらりと入ってきて、短く私たちに視線を走らせたかと思うとすぐ目を伏せる。

うつむいた顔に伸びてきた前髪がかぶって、いつものように表情がはっきり見えない。閉じこもりがちなせいか青白い頬と、繊細な鼻梁だけが仄かに見える。

不規則な生活習慣をうかがわせる不健康な蒼白さと痩せ方は、いつもながら幽霊じみて生気がなかった。

「悪い、待たせた」

彼の声は落ち着いていた。

定位置の椅子を引いて、彼は腰掛ける。

歩き出した死体を思わせるその風貌を目にすると、つい死臭が漂うことを予期して鼻腔がいつも自動的に身構えるのだが、実際は彼の体臭は存在感と同じくらい薄く、体育があったはずの日でもあまり生き物らしいにおいを感じたことはない。

それでも、においと言えるほどのものでなくても、気配がある。

たとえば、彼のおさまりの悪い髪からミント系のごく微かな香りがしている。

久しぶり……いや、最後に彼と会ったのは今週の月曜日だから、三日ばかり空いただけなのだが、なんだかひどく以前のことだったような気がする。

その香りが、意外にアールグレイと合うのを私は知っていた。今日はミルクをたっぷり使う由比ケ浜さんの好みに合わせて、アッサムにしてしまったことを私はほんの少しだけ後悔した。

彼は座ったまま何もない机の上を見つめたままだ。

彼のややうっとうしいくらいに伸びかけた髪が、私から彼の表情を隠す。

彼の髪は実は緩やかなウェーブがかかっていて、いわゆる天然パーマのごく軽いものみたいだ。彼の整髪がおざなりこともあって、大抵、まとまりきらなかった前髪が一条ばかりはみ出して揺れていたりする。

彼がそのヘアスタイルを以前「アホ毛」と自称して、私が「知性の欠如に関する自覚についてだけは褒めてあげる」と言ったときの彼のリアクションを思い出す。

ついそのときの嘲笑が蘇りそうになるのを、なんとか噛み殺した。彼の顔を見たからといって笑顔を浮かべたらどんな誤解が生じるか。

……などという心配は必要なさそうね。

彼は最初のひとことを発して後は、私の方を一顧だにせず、焦点の合わない視線を自分の足下に向けるばかりだ。

視線が合わないのは常のことだが、流石に私もイラついて話を急かす。

「わざわざ呼び出すなんて珍しい真似をするのね」

「いや、俺たちの結論を出そうと思ってな」

……彼の声だった。

由比ヶ浜さんに言わせれば「こっそりイケボ」ということになる。邦訳するなら「知る人ぞ知る美声」となるだろうか。褒めすぎだとは思うけど、言わんとするところは分かる。

彼とは月曜日にも会話していた。でもこの所、彼は妙に喧嘩腰だったから。肩の力が抜けた彼と話すのは久しぶりな気がした。

そう、これが彼の本来の口調だったわね。

低く、力なく、それでいて何故かよく通る。歯切れよく投げやり。矛盾に満ちたその語り口。彼そのものだと思う。

「私たちの結論……?」

続きを聞きたくて私は先を促した。

「ああ。やり方はそれぞれ違うにしても、この部としての結論を出すべきだ。特に今回みたいな一回こっきりの案件の場合はな。お前らの意思は変わらないか?」

「変わらないわ。これが最善手よ」

即答する。

何を言い出すかと思っていたけど、やはりその話を蒸し返すだけなのね。

私はにわかに腹が立ってきた。

彼の方から会いたいと言って来るなんて、珍しいどころではない。空前絶後だ。よほどのことだと思ったし……彼が敢えて歩み寄ろうということなのかも知れない、と。

それが『お前らの意思は変わらないか?』などとまるで私が誤りを訂正するのを待っているかのような傲慢な態度で、何様のつもりなの?

この男に少しでも期待した私がバカだった。

彼は蒙昧にして頑迷で固陋、その上に重ねて狭量な石頭で偏執的で。「変わらない」ことに妙なこだわりをもつ、目も当てられないほど愚かな男だ。

……しかし一方でリスクリターンの計算は抜け目無い小悪党であり、それに節義も信念もないから、自分の勝ち目がないことを悟って意地も張りもなく降ってくることも十分あり得ると思っていた。

そういうことがもしあれば、私も別に氷で出来ている訳ではない。寛容にも彼を許し、私の陣営の中で彼に仕事をいくらか任せてもいい、と。

あの文実の充実を思い出す。確かに前半は私自身ペース配分を誤ってしまうなど問題もあったけれど、息の合うスタッフと同じ仕事を完成していく達成感の快感は何物にも替え難いものだった。

比企谷くんも采配をとるものが手綱をうまく引き絞ればそれなりに優秀さを示す。私が傍について監督する必要はあるだろうが、あれもさせよう、これもしてもらおうとワクワク……

そんな私の予定をどうしてくれるのだ。うんざりとした落胆にかられるまま、私は息を整えてさらに言葉を連ねようとした。

そのとき、ぽつりと小さく、その分染み透るような声がした。

「……あたしも、変わらない」

ハッと振り向いて由比ヶ浜さんを見る。

彼女は自身の内側を覗き込むように、俯きながらも決然と目を見開いて。私たちの誰にもその視線を向けていなかった。

「由比ヶ浜さん、あなたが出る必要はないわ……」

「出るよ。負ける気もない」

強い意志が込められた彼女の声。由比ヶ浜さんのそんな側面をこれまで見たことがなかった。

優しくて強くて可愛いのに、どこか自信なさげで、大事な一歩を踏み出せずにいたようなこの子。

私はあなたを応援してあげられるのだとばかり思っていたのに。

「どうして、あなたまで……」

なぜ今、あなたまでそんなことを言うの。

「……だって、ゆきのんがいなくなったら、なくなっちゃうから。……あたし、そういうの嫌だよ」

「前にも言ったわ、そんなことにはならない」

彼女の懸念は理解出来るように思う。私だって同じ思いがある。

私達三人。誰一人が欠けても、取り返せないほど何かが失われる。由比ヶ浜さんはそのことをわかっている。

勿論、私も分かっている。

だからこその今回の立候補なのに。どう言ったらわかってもらえるのだろう。

欠け去ってしまうものがいるとしたら、誰なのか。

一人、何も分かっていない男がいるのだ。いや、彼はわかろうとしないのだ。或いは、分かってもそれを認めようとしない。

失われるもののの重さを、彼は鼻で笑うだろう。

どうしても彼を止めなければならない。

「だからあなたまで出る必要はないはずよ」

「でも……っ!」

由比ヶ浜さんは視線をあげて、ひたと私を見据える。そのまま彼女は言葉に詰まった。大きな瞳が揺れて、今にも決壊しそうな錯覚を覚える。

と、机の向こうから、相変わらず空気を読まない間延びした声がだるそうに割り込んできた。

「実際、選挙に出る必要はないんだ。由比ヶ浜だけじゃなくて、……雪ノ下もな」

やかましい。

一体誰のせいで、私達がこんな思いをしていると思っているのかしら。

「……どういう意味かしら」

自分でもぞっとするほど剣呑な声が出た。

「あなたの案は否定したはずだけれど」

彼は全く理解していない。

『すべての人があなたを気に掛けて、嫌っているなんて自意識過剰だわ』

先日、私がそう言ったのは、彼の自己評価の低さにつけ込もうとしてのことだ。予想以上にそれはうまく行ったようだった。

しかし実際のことを言えば、おそらく彼なら全校に影響を及ぼすほどの嫌われ方は可能だろう。その方面での彼の才能には比類ないものを感じる。彼が調子に乗るだろうから口にはしないけれど。

しかし、それがこの場合には目的を達成することに繋がらない。

一色さんがどんな経緯で立候補者にされてしまったのかを思えば、すぐにわかりそうなものなのに。

生徒会長など、一般的な高校生から言えば誰がやっていようとどうだっていいものなのだ。全票が浮動票と言っていい。その場のノリ、勢い、雰囲気が支配する。展開を予測したり、ましてやコントロールするのは極めて困難だ。

人気投票でさえない。むしろ嫌なやつだから祭り上げてやれ、くらいのノリになる場合も少なくない。ソースは私。

そういう波乱を避けてコントロールしやすくするためには、退屈で無難で平凡な選挙戦にして、なるたけ全校生徒に無関心になってもらう必要があるのだ。比企谷くんのやり方ではそれが出来ない。

だから一色さんのためにも、比企谷くんを止めなければいけない。

今回はどう叩きのめしてやろうかと、久しぶりの闘志を掻き立てられつつ、彼を見ると、

「ああ。……だからあの案じゃない。ああいうのは……、もうやめだ」

意外なことを言った。

……まっすぐ私を見つめながら。

黒目がちな大きな目。睫毛の長い二重のまぶたが珍しく見開かれて、私を見ていた。

実は、彼は、そこだけ取り出せば少女のように星降る瞳を持っている。妹の小町さんのそれと、そういえばとてもよく似ていた。

いつもうつむいていて前髪の陰で光が入らず、まともに目を上げて人と視線を交わすこともないから、普段その目は暗い底なしの淵のように淀んで見えるし、おそらくほとんどの人は気付いていないだろうけど。

それにその目はいつも、皮肉にすがめられ、嘲弄で歪ませられている。性根の卑劣さが明らかに浮かび上がっていて、要するに醜い。なまじ、大きくて雄弁な瞳をしているだけに、それをのぞきこんでしまったときの侮辱され挑発される不快感たるや耐え難い。

しかし、こうしてごく稀に、純粋な真摯さで直截な視線をぶつけてくる時。

早逝した天才の詩人のような説得力で、その瞳は私を口説く。

口惜しいから、絶対にそんなこと言ってはやらないけれど。

今も私は言葉を奪われて、彼の瞳に吸い込まれていた。

「じゃあ、……なんで出なくていいの?」

由比ヶ浜さんが訊くべきことを訊いてくれて、時間がようやく再び流れ始める。

彼は由比ヶ浜さんの方をちらと見て、また視線を地に落とした。

私は解放された。

彼の視線がそれているのを確認して、私は襟元をなおすフリをしながら首筋を手であおぐ。

おのれ比企谷八幡。やり方が汚い。

平生とのギャップもあいまって、その目力の破壊力は抜群だ。

気づいている人は少ない。彼自身も自覚がないらしいことは幸いだ。彼が自覚して濫用することのないよう、今後も注意が必要だろう。被害者になる子が出てしまってはかわいそうだから。

そんなことを考えていたら、彼がとんでもないことを言い出した。

「一色は生徒会長をやる気になった。だからもう依頼自体が存在してない」

なんですって?

「なぜ急に……」

問いながら、自答する。

決まっている。

この男が暗躍したのだ。

まったく、さすが暗いところを這いまわらせたらこの手の生き物の独擅場ね。私のような脊椎動物では到底太刀打ちできない。

「急というより、もともと前提を間違えてたんだ。一色は生徒会長をやりたくなかったわけじゃない。信任投票で負けること、信任投票みたいに当選して当たり前の選挙に出ること、無様な生徒会長になること、それが嫌だったんだ。だから、その条件を全てクリアすれば、あいつは生徒会長になる」

「で、でも、あたしたちが出なければ結局信任投票になっちゃうんじゃないの?」

戸惑う由比ヶ浜さんの質問に彼はうなづいた。

「ああ。信任投票にはなる。だが、その信任投票に価値があればいい。一色いろはのブランドイメージを損なわないなら、話は別だ」

彼は鞄をとって、蓋を開けた。

「だから、その価値を探した」

鞄からクリアファイルを取り出す。何かビッチリと印字されたコピー用紙がごっそり入っている。

手にとって見ても、よく分からない。論文のような一続きのものではないようだ。それ自体で意味をなすのではなく、何かをリストアップした目録の体裁をしている。

「これって何?」

由比ヶ浜さんにも分からないようだった。

「ツイッター上で応援アカウントが稼働していたんだ。ま、もっともここにある一色のだけじゃなくて他にもあったみたいだけどな」

まさか。

「推薦人集めをインターネットで……」

意表を突かれた。思わずため息混じりの呟きがこぼれ落ちる。

「それだけじゃない。複数あった中で一色が一番多く、リツイートを集めているんだ」

「つまり、実質的予備選挙になる……」

私の呟きに、比企谷くんは気怠げにうなづいた。

なるほど……そうとわかってみればいろいろ思い当る節がある。

「そう、こんなことが……。だから、皆、推薦人の話をしても反応が鈍かったのね……」

見事だ。

悔しいが認めざるをえない。

勿論、インターネット利用についての制限が、あの杜撰な生徒会規約にあるわけなかった。つまり、なにも規制を受けない無法地帯で、好きなように世論を醸成できるというわけだ。

しかも、恣意的な利用が可能なリソースだ。私は『実質的』予備選挙と言ったが、皮肉を込めた言い回しだ。和製英語のバーチャルの方ならニュアンスはあたっているかもしれないが。統計的には全く意味がない、実勢とは掛け離れた、本当っぽく見えるだけの絵空事に過ぎない。

責任を取る必要もない。もし仮に不利な結果が出ても握り潰せばいいだけだ。

ルールの裏をかき、デタラメで事実を攪乱し人心を惑わす、この悪魔じみたやり口。

私はそんな蠅の王に、一人ばかり心当りがある。

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