「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」の二次創作の感想
今年、奥さんのくれたバレンタインチョコはパティシエ・シマの「東京の石畳」っていう生チョコだったんだけど、豪速球本格派の立方体の生チョコでいたく感動した。
チョコレートってうまいんだ。
それだけを主張するマテリアルに四角いだけのダンディズムが実に男前だった。完全におれの好みが把握されている。
のろけはさておき、唐突だがいきなり二次創作小説の感想の話。略してニジバナー。
いや、だって葵絵梓乃さまからコメントいただいたのですよ。
調子に乗りたいじゃん。ファンです、って言いたいじゃん。
以下、例によって「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻までのネタバレ全開なので、ご注意のほど。
二次創作が好きで、少し前からpixivが小説もカバーしてくれるようになったので嬉しい。
pixivの俺ガイルでは、ずっと前にも書いたけど、くぽぽさん好きだよなぁ、と。あとingmarさんとか。
ingmarさんは、勝手にベルイマン監督のファンなんじゃねえかと勘ぐっているんだけど、雪ノ下雪乃のキャラを、愛読書を須賀敦子だとかエミリー・ディキンソンだとか設定することで立ててくるあたり新鮮で、優雅にして繊細な描写が二次創作離れしてて、すごくおもしろかった。
お二人とも最近更新なくて……まあ、仕方ない。人生ってそんなものだ。
くぽぽさんも、ingmarさんも、原作にあるシーンを主人公ではないキャラの視点から描き直すスタイルで、おれはそういうのが好きなんだよな、ってしみじみ思う。
おれ自身で書いたSSの殆どがそういうタイプだしな。同じなのはタイプだけだが。
原作を離れたif展開、パラレルワールド的再構成、オリジナルキャラクター投入、そういうのが、じゃあ嫌いなのかというと、いや結構好きだしというあたりがおれのしまらないところで結局なんでも良いのかよ好み語る意味ねーだろ、みたいな。
はちまんことか、ノートに八幡の名前書きながら全力疾走で追いかけてくる葉山とかも、大好きだったりする。
そんなおれは、俺ガイルを通じて衝撃的な二次創作小説に出会うことになる。
今回の本題に入ろう。
葵絵梓乃さまの「探偵娘」シリーズだ。
主役がオリジナルキャラクターである。にも関わらず、原作の改変が全くない。原作の設定や舞台を借りただけのサイドストーリーとかではなく、メインキャラクターともばんばん絡み、原作のテインテーマに深々と斬り込んでいく、のに、原作の進行を邪魔しないのだ。
そして、なにより面白い!
初めて見るタイプの二次創作だった。
この手があったか、と膝を打つ一方で、思いついたって書けねーよ、みたいな複雑精妙の筋書き、構成の巧みさ、じつに見事の一言だ。
ジョセフィン・テイの「時の娘」を思わせる、と言えば、なんとなくイメージがわくかもしれない。おかげで、おれにとって八幡の「腐った魚の目」と表現される眼差しは、例の肖像画のリチャード三世の瞳の図像となって脳裏に結ぶようになった。
オリ主苦手、という人は少なくない。でも苦手な人でも「探偵娘」シリーズだけはちょっと別な感想を持てるじゃないかと思うんだ。騙されたと思って読んでもらいたい。
まあ、おれはわりとオリ主好きな方で典型的なメアリ・スーでもそれなりの愉しみ方ができるからちょっと当てにならないかもしれないけど。
おれは一人称以外の文章を信じない。VIPあたりでは「クサい」の「ウザい」のと言われそうな自分語りこそ、おれは読みたい。変に中立普遍ぶった言説には、おれは魅力を感じない。
オリジナルキャラクターにはそれがある。もういっそ、完全にオリジナル小説書いちゃえよ、とおれでも思っちゃうくらいの自己主張になっているときもある。
けどやっぱり、二次創作として、原作の世界観に敢えて挑戦することに、おれも興味を持っている。
それは、なんというか口幅ったいけど、やっぱ愛だろ、愛、という感じだから。
その時、そこに、その作品と出会ったんだ。
自分の中の何かを動かされて、何も無しでは済まなかったんだ。
ラブレターを書きたくなっても良いだろう。片思いだろうが構わない。
原作に忠実にそのスキマや裏側をなぞるようなくぽぽさんやingmarさんの作品の切ない片思い感が、だから好きなんだ。
その2つ、自己主張と原作への愛、両方のバランスをとるのは難しいだろうと思う。 「探偵娘」シリーズに、おれは奇跡的なバランス感覚を見出す。
オリ主、探偵娘こと真鶴真実が実にコケットでハンサムで魅力的だ。
彼女は探偵であり語り手である以上に、捜査の依頼者なのだけど、物語の最後で彼女自身が犯人だったかのようにその動機を語る。
おれは勝手にその独白を、推理を、解釈を、葵絵梓乃さん自身のそれと思って聞く。無論、フィクションとして脚色されたものだろうけど。
探偵娘がどうしても比企谷八幡を追わなくてはいけなかった理由が、葵絵梓乃さんがその物語を書かないでは済まなかった理由が、胸に迫るのだ。
そんなにも作者の存在感を響かせながら、それでもストイックに原作を侵すまいという姿勢が、葵絵梓乃さんにはある。
その節度が小気味良い。
どうも葵絵梓乃さんには、恋愛脳的にゆきのんと八幡くっついてほしいってかもうお前ら結婚しろ教会をここに建てよう、という気配が濃厚なようにおれには感じられる。
その辺有り余ったのが「案の定、二人のインカム漫才は長引いてしまう。」という別の短編に結実していたりはしないか。
それでも、一方で原作が安直にラブコメ展開に入らない意味を大事に考えても居られるらしいのだ。オリ主真鶴が雪ノ下雪乃から「この恋愛脳めが!」的に罵られて叩きのめされるシーンが、だから、実に良い。
見当違いな感想だが、ファンとしての気高さを感じる。
原作は原作。
決して、我々ファンのものではない。
そのことを寂しく感じてしまう、身のうちの欠損を切なく思う。しかし、その距離を、断絶を、我が身の孤独を、認め受けとめようと決意する、それが原作への愛であり、ファンとしての矜持の立脚点となろう。
雪ノ下雪乃の去った屋上で、瀑布のような雨にただ打たれて立上がれない探偵娘の惨めな姿。
これを情け容赦なく描き出す姿勢がものすごく好きだ。
こんなかっこいいファンに、おれもなりたい。
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コメント
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ああっ今気づきましたありがとうございます。葵絵梓乃本人です。
私のような一介のSS書きが書いたSS、その記事なんて恐れ多くも嬉しい気持ちで拝読させていただきました。お褒めに預かり光栄です。
探偵娘シリーズのみならずインカム漫才の方にまで目を通していただいて誠にありがとうございます。
今回、管理人様がお書きになられた当記事ですが、今の私ではなく探偵娘を全力で書いていた一年前の私に贈りたい記事でした。私自身も一人のファンとして、一年前の私に賞賛を贈りたいですね。
このシリーズ以降、これといった作品を投下できない現在の自分が結構情けないです。
インカム漫才ですが、他人から見たらイチャイチャなのに本人たちは全くそのつもりのない会話、とはどの程度の会話なのか探りながら書いていたので、結構楽しかったです。だけど6巻のあの雰囲気だと、二人はホントはもっとキレのある深く突っ込んだ会話ができるはずなのに! と反省も多かった一作です。(一番書いてて楽しかったのはモブの反応です)
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」は読んですぐ私の中で結構特別な作品になった思いもあります。まさに管理人様の見立てどおり私の矜持は以下の
「原作は原作。
決して、我々ファンのものではない。」
に集約されます。
ならば私のような一介のSS書きは作品を尊重し、尊敬して初めて二次創作小説(SS)を書かないと無礼である。だから「SS書きなのだから主張や考察はSSの中でやる」「可能な限り原作に支障をきたすようなフラグは立てない。もし立ったら力技を使ってでも後で折る」を鉄則に探偵娘を書きました。
それが管理人様の記事に繋がったとなるともう感涙ものです。
本当にありがとうございます。
ちなみに私も、別視点から見た話を書いたSSは好きです。
あとベッド・ディティクティヴという分野があることを今初めて知りました。あと時の娘。今度買って読んでみようと思います。ありがとうございます。
投稿: 葵絵梓乃 | 2014年5月 6日 (火) 01時07分
葵絵梓乃さま、コメントありがとうございました。
私の勝手な読み方を許してくださってありがとうございます。
私自身のことなんですけど、何かのファンになるとどうしてもワガママに、自分の願望を混ぜ込んで、こうなってほしいとか、ああでなくちゃダメだとか、言いたくなっちゃう。
実に下品で申し訳ない。
でも私は自分に甘いから、いいじゃんちょっとくらいはさ、みんなだって言いたいでしょみたいないい加減なスタンスで言い続けるんだけど。
でも、俺ガイルってそもそも、許容と強要の違いにこだわる物語で。
そういう物語を、許容せず強要しちゃう自分ってどうなのよ、と問いを突き付けられる心地がいつもある訳です。
とかいいいながら私は平気で強要しちゃうけど。ってか、どうせ強要も何も、こんなところで何ほざいてたって作者先生に何の影響がある訳でもないと思って、気楽なもんですが。
そんな自分のだらしなさは棚に上げて、それでも、強要はしない、と凛々しく自分を律する折り目正しさを美しいと思います。
そういう自分への縛り、自分を許容せず、自分にきまりごとを強要する、そういう自分ってどうなのよ、と、俺ガイルは問い掛けてくる無限ループな訳ですが、まあいいじゃんちょっとぐらい強要したって。自分なんだし。
というわけで無責任に応援しています。
新作待ってます! がんばってください!
投稿: にぽぽだい(管理人) | 2014年5月 7日 (水) 01時20分