「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」8巻の感想 その2 雪ノ下雪乃の場合
あけまして御目出度う御座います。
読み返してみたら、前回書いたのって、ほぼ6.50巻の感想だった。
それだけ6.50巻の由比ケ浜さんが衝撃だった訳だが、だったら、6.50巻出たときに書けよ、って自分で思いました。
今回はなんとか8巻の内容に入りたいです。
以下、いつものようにネタバレ進行ですので、ご注意。
安西先生。
雪ノ下雪乃さんのことが、書きたいです。
いいから書けよ、って感じだけど、それが大変難しい。
6巻頃から気配はあったけど、7巻から、一気にデレましたよね、雪乃さんは。8巻も痛々しい程のデレっぷりがハンパない。
デレ方が身につまされるというか、感情移入もハンパない。登場人物の中で、おれが一番シンクロニシティ感じているキャラかもしれない。
八幡が、難聴ニキ的なとぼけ方をする卑怯者でもなく、非人間的な朴念仁というわけでもないところがつらい。
八幡は、人並外れた洞察力と観察力を持ち、十分な関心を払って、誠心誠意相手を思いやる。理想的な「自意識」、という役回りだ。
理性の化け物」「自意識の化け物」とか言った時の「化け物」という言葉には、多分、「理想の」とか「最高の」とか、そういう含みがあり得ると思ってる。
そこまで理想的な自意識であってさえ、雪乃の思いは汲み取ってはくれない。
8巻で、雪ノ下雪乃が生徒会長に立候補しようとする、その意図と目的は一体なんなのか。
正直、おれには雪乃さんがなに考えているのか、さっぱり分からない。
主人公だけが鈍くて、読者にはミエミエだ、みたいな展開がラノベのテンプレだと思うんだけど、八幡は、鈍いわけでも愚かでもない。
その彼が、ずっと、初めて出会ったその瞬間から、雪ノ下雪乃のことで頭いっぱいにして、観察と洞察に傾注して、それでも、当惑と困惑の裡に萎縮するしかないのだ。
頑なに八幡一人称視点の閉塞感を表現し続けてきた、原作の積み重ねが生きた最新巻だと思う。こういうのも伏線というのだろうか。
発売後、2ヶ月近く経つわけだが、散見するネット上の感想も当惑に満ちている印象が強い。注意深い読者であればあるほど、そうなるだろう、とおれは想像する。八幡以上の情報を持たぬからには、とりあえず、彼の考えを受け止めるしかない。
雪乃が結局、八幡や奉仕部や依頼とかとは余り関係なく、単純に生徒会長になること自体に興味があったのだ、とする意見が、意外にも多い印象があって驚いている。
でも、それも結局、八幡が8巻のラストで考えていること。
八幡が信用ならない語り手だ、ということは、あちこちで言われていることのように感じていたんだけど、それでも、そのまま鵜呑みにするしかない位、読者の判断材料がない、ということなんだと思った。
しかし、おれは読者であって、登場人物には不可能な視点から知見を得られる。
物語の構成ってものを考えられる。45分になったからそろそろ印籠が出てくるよ式の思考法だ。
その思考法で言えば、生徒会長になることが雪乃の目的なはずがない。伏線がなさすぎる。あくまでそれは手段でしかなく、真の目的は他になくてはならない。
そして、もし、その目的が八幡と全く無関係なのだとしたら、7巻のエピソードが書かれる意味がない。
7巻が刊行された後から、わざわざ時系列さかのぼって、6.25巻、6.50巻、6.75巻、7.50巻などが発刊される意味もない。
じゃあどんな関係があるのかよ、ってことなんだけど。
「うまく説明ができなくて、もどかしいのだけれど……。あなたのそのやり方、とても嫌い」
聡明なる雪ノ下雪乃、理路整然と、ともすれば余計なことさえ歯切れよく言ってのける、そんな彼女の、あまりに凡庸で、理不尽な言葉。 感情的、まさにそういう他にない言葉。
そんな言葉を口にすることが、雪乃さんのこれまでの人生で、一体何回あったろうかと思うんだ。この希有な事態を、雪乃さん自身が怪しみ、そのことについて考えなかったとは思えない。
きっと、その日以来、八幡のことで雪乃さんのアタマはいっぱい状態だと思う。
おれは想像する。
その「もどかしい」状態は、雪ノ下雪乃にとってほとんど未知の、耐え難いものではなかったろうか。彼女には、そこから逃れたい気持ちがあったのではないか。
おれはさらに想像する。
雪ノ下雪乃の立候補は、不可抗力的に奉仕部を去る、それこそが目的だったのではないか。
雪乃は、奉仕部から、八幡との微妙な距離感から、逃げ出したかったんじゃないか。 彼に関するうまく説明できない気持ちに、もうそれ以上、もどかしい思いをしたくなかった。
嫌なのだ。それは確かに、嫌な気持ちだ。
しかし、本当に単純素朴に嫌悪だけなら、うまく説明できなくてもどかしいなどということも無い筈だ。いつものように、弁舌爽やかに非難糾弾してやっつけてしまえばいい。
そうではないのだ。うまく説明できないのだ。どうしたらいいか分からないのだ。
逃げ出すしかない。
それでも、雪乃は逃げる自分を認めることもできない。それでは、誰も救われないじゃない。
言い訳が必要だった。問題と動く理由が。 雪乃はその言い訳を得てさえ、なお平常の彼女に似ず、歯切れ悪い。由比ヶ浜さんにさえ、立候補の意向を言い出せない。
この躊躇いが如実に語っている。やはり、雪乃の立候補は、逃げなのだ。どう理論武装しようと、彼女自身が一番よく分かっているだろう。
「うわべだけのものに意味なんてないと言ったのはあなただったはずよ」
八幡の欺瞞をそう言って責めながら、当の彼女自身もまた、うわべだけの立候補に逃げ込む。
八幡と初対面の時、彼の「逃げ」を苛烈に咎める雪乃さんの厳しさ。
おれの想像に過ぎないが、そこまで熾烈に逃避を否定しなければ、今ここに踏みとどまっていられない程、雪乃さんの逃げ出したい気持ちは激しいのではないか。
それでも、逃げ出すことは許されない。逃げたら絶対に救われない。世界中が彼女を包囲し、追求し、指弾する。
彼女は敢然として逃げない自分を演じ続ける他ないのだ。それは厳しくつらい道だが、一方で誇りとなって彼女を支えた側面もあったかもしれない。
しかし、今、自分は逃げ出そうとしている。
おそらくこのことだけでも、彼女の自己像を大いに傷つけると思うのに、さらに、彼女はそのことを隠そうとした。嘘を、ついたのだ。
さらにおれは想像を重ねる。
「わかるものだとばかり、思っていたのね……」
こんな台詞で、雪乃は8巻の物語の間中、あるいはそれより以前から、ある期待を抱えていたのだと明かされる。
それは、どんな期待だったのか。
八幡に、何を、わかってもらいたかったのか。
このポイントにこそ、彼女の最も深い傷つきがあると、感じている。 おそらく、前巻のラストにぶちまけられた「うまく説明できないけど、そのやり方が嫌い」という思いに関係がある筈だ。そういう構成だ。
「わかるものだとばかり、思っていたのね……」
眠るように瞳を閉じながら発せられる、終わってしまったものを悼むようなその言葉。
おれは、その言葉の中に、ストレートな落胆の響きを聞く。
八幡も、その落胆を聞き取って、心をざわつかせたのではないか。
それは、果たして、彼女の期待が叶わなかった故の落胆だろうか。
八幡はそう思った。
彼は、自分が雪乃の心情を理解できなかったから、落胆させたのだと想像したようだ。
おれの想像は違う。
雪乃が、本当に八幡にがっかりしたのなら、その後、見る者の心を苛むようなひどい微笑みを浮かべてまで、うわべだけの馴れ合いを維持しようとはしないだろう。
雪乃の期待を裏切ったのは、他でもない、雪乃自身なのではないか、とおれは想像する。
むしろ、八幡の考えと行動は、適切に雪乃の秘めた思いを汲み上げたものだったんじゃないか、とおれは想像している。
そのパティーンの方が、ドラマティックな展開だろう?
些かメロドラマっぽいけど。いいんだよ、おれは好きなんだよ。
そう、雪乃は本当は、引き止めてもらいたかった。
居場所を用意してもらいたかった。
八幡に、ここにいて欲しい、と、望まれたかった。
そして、確かに、彼は引き止めたのだ。彼自身もできる限り傷を追わないやり方で、奉仕部の変化の最も少ない手際で、雪乃の居場所を残した。
確かに願いが叶ったのに、だからこそ、雪乃は落胆したのだ。
引き止めてほしい、と願ってしまった自分に。
ぬるま湯のような居場所を残してほしいと祈った自分に。
そして、その思いを、比企谷君ならきっと分かってくれる、と期待した自分に。
更に続きます。
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