アニメ「氷菓」感想 第11話「愚者のエンドロール」その1
このところ更新スピードが上がっているのは、勿論おれが「氷菓」にはまっているせいなんだけども。
iPadとBTキーボードとtextアプリが、ようやくちょうどいい組み合わせが決まって来た、っていうのもある。現行の態勢はかなり快適。やっぱり律速段階は下部構造にあるのだな。
という訳で、"Why didn't she ask EBA?"の完結編の話。
いつも、完結した後の結果論的感想だったから気がつかなかったけど、話が進行する途中で感想書くとなると「いまはこういうところまで見てて、こういう理解してるところですよ」という現状説明した上で「それでこういう感想なんだけど」って書くわけだから、なんか3倍量くらい書くことになるんだね。
大変。
実況とかやっている人、すごいえらいなと思いました。
んで、以下はいつものように11話までのネタバレがトランザムな感じなので、ご了承下さい。
探偵と作家、というと、杉井光の「神様のメモ帳」シリーズを思い出す。
おれはフェアなミステリは苦手だけど、アンフェアなミステリもどきは大好きで。杉井光は「生徒会探偵キリカ」シリーズも好きだな。こっちは探偵と詐欺師、だけど。
野村美月の「文学少女」シリーズもいいよね。推理ではない、想像だ、という非論理的なスタンスがすごく良かった。
これまで書く隙間が無かったのでご披露していなかったのだけど、実は、おれには第8話からずっと温めていた推理があった。
第8話の冒頭で、女帝とおぼしき女性が、PCチャットしている相手の「あ・た・し♪」さん。
絶対、遠垣内先輩だと思ってた。
そうか、そういう人だったんだ!! と思えば全てが符合する。あんなナヨッとしたイケメンなのも、CV置鮎だったのも。
先輩が、一人で部室の中で行なっていた、臭いのたつ行為。メイクして、女装してみたいな、だったんじゃないか?
だとすると、それが暴かれそうになったときの彼の取り乱しようもよくわかる。喫煙に比べて、違法性は低い。しかし、スキャンダラスな話題性を考えたら破滅的と言っていい。
女帝はどういう経緯でだか、彼の性癖を知っていたのだろう。遠垣内先輩にとっては、唯一、何も隠し立てせず話すことが出来る数少ない「同性」の友達だったかもしれない。
だから、折木君の話が出来たんだろう、と。遠垣内先輩が折木の話をするとなると、部室の中で一人でいるときの秘密を話さないでは済まない筈だ。
でもなぁ。第11話のラスト見ると、「あ・た・し♪」さんはやっぱり、折木姉のようでありますな。
なんだよ、おれの推理ちっともあたらねぇ。この点については相当自信あったんだけどな。外れたようなので、忘れないうちに書いておこうと思った。
あだしごとはさておきつ。
面白いな「氷菓」。あらためてそう思った。
特に第11話は本当に、すごく良かった。正直、9話までのところで、このエピソードがこんな面白くなってくるとは、あんまり思っていなかった。
なんかおれが苦手なタイプのミステリっぽい話になっちゃうのかな、あの氷菓事件の時のような、孤独と無力感と罪悪感の物語には、もう戻らないのかなぁ、と。
でも、諦めず見ていて良かった。
それにしても、かわいそうだったな、入須先輩。周り中、子供ばっかりで。
おれの予想に反して、全く犯人役などではなかった。犯人でも被害者でも、探偵でもなかったが、そういう人物がこうも重い存在感を放つ物語は、実にぼくの好みだよ、ホータロー。
第11話での喫茶一二三で女帝と二度目のデート。
折木君が必死の問いを投げつける。
「誰でも自分を自覚すべきだと言った、あの言葉もウソですか!」
それまで、打てば響くように涼やかに応えていた入須さんが、はじめて、黙する。
たっぷり20秒以上。
そして、居住まいを正して、真剣な表情で答える。
「心からの言葉ではない。それをウソと呼ぶのは君の自由よ」
強い人だ。
そして、優しい人だ。
おれはそう思った。
おれから見れば、折木君の怒りは逆ギレ以外の何物でもない。
女帝が彼に何か損害を与えたか。
いや、それどころか、本人さえも気がついていなかった彼の才能を引き出し、天下に認めさせた。
彼自身の誤った自己像を訂正してあげた。
自分自身の把握が甘いと、他の人間にいいように利用されてしまうんだよ、と、比較的安い授業料で教えてあげた。
感謝されこそすれ、なじられる謂れはない。
おれが女帝の立場なら、そう言って突き放す。
おれは、女帝のために立ってやりたい。彼女のために弁じたい。
ウソをついているのは、君たちだろう、と。
君たちが、自分自身が何者かも知らず、知ろうとする真摯な努力も無く、「やればできるさ」とタカをくくって、いい加減な真似をしているんじゃないか。
それは自分自身にウソをついてるってことだ。
そこを指摘して「その技術が無いから上手くいかないだろう」と、真実を言えば、「冷徹」だの「非情」だの言われる。
冷徹なのは、非情なのは、女帝か?
女帝が黙っていれば、万事上手くいくのか?
あり得ない。非情で冷徹なのは、現実のこの世界そのものだからだ。
折木君だって、自分をずっと騙していた。「運が良いだけだ」などと言い訳するばかりで、自分が何者か、探究しようともしてこなかった。
もし女帝が正直に「君の創作能力を見込んでお願いしたい」と言ってたら、折木君は交渉に応じたか。
折木君に自分の自覚があれば、すぐに報酬の交渉とスケジュールの打ち合わせをして、事務的にたんたんと終わる話だった。
折木君が自分に無自覚だから、女帝もそれに合わせた手管を用意したまで、とおれには見える。
それをまるで、女帝が悪だくみして、彼を傷つけたかのように、大声で非難して。
「誰でも自分を自覚すべき」
本当に、本当に、心から、女帝はそう思っている筈だ。みんなが現実の厳しさと、自分の実力の関係をわきまえていれば、女帝がこんな貧乏くじを引いて、憎まれ役になることもない。
「心からの言葉ではない」
その言葉こそが、これまでの入須冬実の発言の中で、一番、嘘に近い言葉だったろう。
今回の一件で、自分が探偵役ではなかったと悟ることができた折木君は、多分、あと数年もすれば、自分が何者かもっと精確に見積もることができるようになるだろう。
その時になれば、きっとこの時の女帝の優しさと凛々しさがわかる筈だ。
というか、分かるようになって欲しい。
折木君は特別だ。
カマをかけ、脅迫して、事を思い通りに進めた遠垣内先輩との一件を、女帝が知っていたとすれば、自分と同根の資質を感じた筈だ。第10話の「君は特別よ」のセリフも、かなりの濃度で、女帝の本気の期待が込められていたのではないか、とおれは見る。
果たして、映画「万人の死角」制作過程での折木君の活躍は、前回強調したように本当にすごかった。折木君はいい仕事をした。
折木案は、単に映画のシナリオとしても良いものだったが、それ以上に政治的な折衝案として優れている。
もう既に仕事が終わった小道具班の羽場先輩の持ち出した「ザイル」のことは無意識に(?)失念しているけど、映画完成後から仕事が始まる広報班の沢木口先輩の「7人目の出演者」は重要な意味を持たせている、とか、クラス内のパワーバランスを考慮しているとしか思えない。
女帝の注文通りだろう。いや、注文つけてもここまでは仕上がらないかもしれない。
入須さんが、歳相応にうきうきと喜んで、「あの映画のタイトルをつけてみないか」と折木君に頼むシーンが、今見直すと悲しい。
長くなったので、続きます
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