アニメ「氷菓」感想 第14話「ワイルド・ファイア」
おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉
引用で始まる文章というのがある。
多分、文章作法の教科書とかあったら、悪文の一典型としてあげられるパターンではないかしら、と思うんだけど、私、気にしません。ということで、今回は引用から書き出してみた。
芭蕉の引用からスタートだけど、中身は「氷菓」の感想です。
いつものようにネタバレも過激にファイヤー!なので、ご注意のほど。
鬱展開に、事件は要らない。
難病も、人死にも、強姦も、いじめも、からだの障害も、虐待も、天災も、貧困も、呪いも、不幸それ自体さえ、必要ない。
平和な国の豊かな時代に生まれ、親に養ってもらって学校に行って、仲間もいて、親友もいて、放課後には魅力的な異性と甘酸っぱい部活動に勤しんだりして、それでも、なお、人は傷つく。
深刻に。
おれたちは、息をするように、たやすく傷つく。
はっとする程生々しく、心の柔らかいところに、それは、ずぶりと突き刺さってくる。
「氷菓」は、そういう傷つきの物語なのだと、おれは理解してきた。
だから、このところ続いている「面白い学園祭模様」も、ジェットコースターが、最初の登り坂を機械仕掛けでタンタンタンとゆっくり押し上げられて行くような序章、と思っている。
それはそれで間違いない筈だ。既に伏線はいくつも張られている。いずれ襲いかかってくる「やがて悲しき」の急降下を、おれは疑わず、こころ楽しく待っている。
の、だけれど。
しかし、正直、そろそろ、しんどくなってきた。
高校生活を懐かしむ程の歳ではない。かと言って、高校生が楽しむ娯楽を、同じ目線で楽しめる程、童心豊かというわけでもないんだ、このおっさんは。
早く、人間関係ぎすぎすしてこないかなぁ。
お料理対決の展開とか、ご都合主義的すぎるでしょ。
いや、すごく面白かったさ。意外性があったし、良く工夫されてて、結構複雑なプロットなのに見やすくテンポ良く展開して、料理がうまそうで、調理の指の動きに説得力があって、こんなに良く出来ている作画は見たことない。杉田智和のサービス満点の解説も楽しかった。
だが、ご都合主義だ。
シェイクスピアのコメディみたいに、ご都合主義千万だった。
そうさ、おれもご都合主義大好きさ。そもそも、このブログだって「オーディンスフィア」を褒めるために立ち上げたくらいだぜ。
でも「氷菓」ってそういうんじゃなかった筈なのに、って思いが拭えない。
まあ、いい。これからだ。
それでも「氷菓」なら……「氷菓」ならきっと何とかしてくれる。
後で、あの料理大会みたいなどうでもいいときにはあんなに運よく物事が進んだのに、どうしてこの肝心なときには奇跡が起きないんだ、的に、現実の厳しさを思い知るための前フリだったことがわかるんだと思う。
ああ、そうか、それなら納得だ。
そう信じる理由はいくつかあって、第一はやっぱりなんと言っても入須先輩の存在。女帝、というよりアニキと呼びたい男前。
14話で、千反田さんに人使いのコツを指南するシーンがあるじゃない。
女帝が千反田さんに教えたやり方は、そのまま女帝が折木君に施した術であるわけだけど、実は千反田さん自身が普段からいつも折木君にかけている技でもある。
どころか、まさにこの回で「私に人への頼み方を教えて下さい!」と女帝にお願いする、その頼み方こそ、それじゃないか。
女帝が、そういうお願いされて「はあ!?」と素で驚くのもわかる。お前がそれを私に訊きますか、と。
それでも女帝は「おねだりは貴様の得意技だろうが」と突っ込んだりしない。
そこは、千反田さんが自分で自覚しなくちゃいけない所だからだ。
なるほど、女帝が「自分を自覚すべき」って言っていたのは、こういう意味だったんだな。
男前と言えば、ナコルル先輩も、おっと今回からキング先輩だったな。
「じゃ、ポスター手伝って」
派手なポスターかいて集客しようぜ、というのは、第13回で先輩が言いだしたテコ入れ策なんだけど、その後、摩耶花と議論になって、立ち消えちゃったんだよね。
それをここで持ち出して来るってのは「今後の展示の方針は自分のアイディアで仕切るよ」と、つまり「自分の勝ちだからね」と宣言したということなんだと思う。
そして、自分への抵抗勢力の第一である摩耶花に「手伝え」と。自分に従わせて、雌雄が決したことを形に示す。
いわば罰ゲームみたいな措置ではある。
でも、一方で、先輩自らが率先してそう命じれば、ボカロ軍団とか外野は黙るしかない、ということでもあるよね、とおれは想像する。
そして、ポスター描き、先輩と摩耶花の二人だけで、他にやっている人がいない。一見、罰ゲームの無茶振りに思えるが、しかし、伊原さんが物凄く絵が上手くて早い。
ひょっとして、ナコルル先輩(じゃなかったか、えーいもうナコルル先輩でいいやもう)は、伊原さんの活躍の場を作りたかったんじゃないか、とおれは想像する。
いや、もうこれは間違いないでしょ。
ナコルル先輩自身、すごく絵がうまい。こうなってくると、彼女が前日「レビューなんて」と言った言葉の意味が、ちがって聞こえてくる。
描けるのだ。
先輩は、摩耶花は、描ける。そして、描きたい。あそこまで描けるようになるまで、どれほどの時間と力を注いだことだろうか。
自分では描きもせず、ただ読むだけのくせに、上から目線で毀誉褒貶をほしいままにする評論家気取りの、たとえばおれみたいな消費一方のファンとは、ちがうんだ。
彼女たちが「名作」云々と言う時、それはオタクっぽい言葉遊びにとどまらない。自分自身が果たして、名作を描くことが出来るのかどうか、と自らを試す問いの筈だ。
そのために血を流し、魂を削り取って、差し出す覚悟がある。その痛みを、不安を、そして恍惚を。彼女たちは共有している。おれの想像だが、おそらく「夕べには骸に」という作品に、そういう気持ちを思い出させる力があるんだろう。
ナコルル先輩は、そういう共感を、なんとか伊原さんに伝えようとしてるんじゃないかと思う。あんまり上手くいってない感じだけど。その不器用さが可愛いのう。
まあ、おれは未だに、薔薇色と灰色の葛藤と矛盾にひっかかっている、というわけだ。
女帝も、ナコルル先輩も、自分自身を確固と持していくことと、なおかつ自分の枠を超えて他者とやりとりしていくことの間を、行ったり来たりしている人。
おれにはそう見えている。
彼女たちがいる限り、彼女たちをその形に彫琢してきた「現実」ってヤツが、「氷菓」の世界な訳で。
だから、きっといつか、物語はこのテーマに帰ってくる。
んじゃないかなぁ。
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投稿者・ピッコロ
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