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2012年7月20日 (金)

アニメ「氷菓」感想 第13話「夕べには骸に」

おいおい「空ろの箱と零のマリア」の5巻が出たばっかりだってのに、「人類は衰退しました」の7巻とか、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」5巻とか、どうしたんだ。
嬉しいけども。
並べると嫌なラインナップ。俺ガイルが一番健全だとか、おかしいよ。
こんなひねくれたラノベばかり立て続けて出ると、心配になるね。日本の明日が。

ではさくさく氷菓の感想行ってみようか。
以下は例によってネタバレ配慮皆無なのでご了承のほど。


「夕べには骸に」って、同人誌のタイトルだったんだ。
しっぶいタイトルで、確かに面白そう。「朝には紅顔ありて」ってか。
おれが前回、伊原さんが「不朽の名作」を求めている感じ、しかし「11人いる!」さえも忘れ去られて行く、という世の無常に傷ついている、みたいなこと連想していたのは、次回予告で、このタイトルが出たのをサブリミナルに受け取っていたのか、と思った。

それにしてもネーミングセンスがすごくいい。
繰り返すけど、おれは劇中劇って好きなんだ。
先日の"Why didn't she ask EBA"と劇中映画の「万人の死角」のハーモニーはやばかった。
おれが先日書いたことだけじゃなく、"Why didn't she ask EBA"自体が、広く言えば叙述トリックみたいな仕掛けになっていたりとか、さ。誰にしても、自分自身のことが一番見えない、というテーマのエピソードで、主人公が映画につけるタイトルが「万人の死角」とか、カッコいいのう。
今回も、「夕べには骸に」の内容が、エピソード全体の展開に絡んで来るんだろう。
おそらく自己言及的な和音を奏でるんだろうなぁ。大いに期待。
 
伊原摩耶花さんを掘り下げるエピソードになりそうなのは、おれの期待通りですごく嬉しい。
ナコルル先輩(2Pカラーの方が似合いそう)が、摩耶花好き過ぎてワロタ。っていうか、構ってほしがりすぎだろう、あの口の片方だけで笑うニヤリ笑いとか、すっごい挑発している。
ようやく伊原さんが立上がってケンカ買ってくれた時の、嬉しそうなこと。かわいいなあ、おれが高校生なら一発で好きになるね(またかよ)
 
ナコルル先輩もいろいろあったんだな、って思ったり。考えてみりゃ、今時、ナコルルって言うのも、アレだしね。なんかの主張があるのかな。
どうも、この先輩、おれが前回想像したような、ただ明るく楽しくというだけののんきな人ではないようだ。
例によって単に想像にすぎないんだけど、自分に噛み付いてくる後輩を可愛く思うとか、熱血すぎる。
「私たちは好きな物だけ読んで、ケラケラ笑っていればいいのよ」
とせせら笑う彼女の台詞に、悲痛さを感じるのはおれだけか。
おれだけですね。そうですね。
でも、おれは想像する、おれは、そこにナコルル先輩の怒りを感じる。ナコルル先輩が苦しんでいるのを感じる。
世間の連中の「アンテナ」の低さを、そして、何よりも、自分のアンテナが自分が望むほどに高くないことを。
そう、強烈な自嘲のにおいを感じるんだよ。
「好きな物だけ読んで、ケラケラ笑っている」みたいな漫画の消費の仕方に、いや、生き方に、どうしても満足できない自分。
でも、それしか出来ない。価値あることなど、出来はしないのさ、と。

伊原さんは「夕べには骸に」は昨年の神山高文化祭で発表された、という。
しかし、どうも漫研からの出品ではなかったようだ。漫研の作品だとしたら、先輩に「知っていますか?」って言い方はないだろう。
ナコルル先輩は明らかに知っている様子だった。それなのに「しらないよ」と答えるんだよなぁ。
「夕べには骸に」の書名を出された瞬間の驚きの顔が、おれには決して嬉しそうには見えなかった。
むしろ、はっきりと、なにか傷付いた痛みの顔をしていた、と見えた。
知っていて、名前を聞くだけであんなに驚くほど、思い入れがあって。
それでいて、顔を歪めて「……知らないよ」と吐き捨てる。
なんだろう、そこにどんな思いがあるのだろう。ワクワクする。この辺りのナコルル先輩の表情のアニメートが物凄いと思った。複雑で微妙な表情の変化を見事に演技していて、想像をかき立てる。
 
一番ありそうなのは、「夕べには骸に」がナコルル先輩の作品だということかな。自分としては渾身の傑作なんだけど、正当な評価を受けられなかった、とか。
うーん。
もし、そうだったら、ちょっとがっかりだな。
挫折と言えば、確かに挫折だけど、ちょっとシンプルすぎる。それで「あいつら見る目がねーんだ、アンテナが低すぎる」みたいな負け惜しみ言っている、となると、ちょっとキャラ的にも随分情けない人な感じだし。
これがラノベとかアニメとかなら、そういう展開は十分ありそうだし、面白そう。いろいろあった末に先輩と伊原さんは仲良くなって、先輩も自信を取り戻して漫画描き出して、みたいな。そういう前向きなストーリーに、幕間にほのぼの日常系コメディ織り交ぜて、「まんけん!」みたいなタイトルつけたら、映画化だって夢ではない。
そういうのも、素敵。しかし、おれが「氷菓」に期待しているのは、そういうことではない。無力にも「生きながら死んでいく」犠牲の無念を目の当たりにして、ぐさぐさとやさぐれた気持ちを味わうことなのだ。
「私たちは好きな物だけ読んで、ケラケラ笑っていればいいのよ」の台詞に込められた、自嘲のニュアンスは、そういう「氷菓」的な、もっと真っ黒な無力感溢れる体験を想像させる。
ピーター・シェーファーの「アマデウス」の、サリエリを思わせる自嘲だ。
……ねーか。ねーな。
いや、まーそうなったら良いな、という、例によって、おれの希望的願望なだけですよ、どーせ、ね。
 
話は全然変わるけど、前回の田名辺さんのアドバイスで「他の部の売り場に置かせてもらう」って、絶対入須先輩の再登場フラグだと信じていたんだけど、いつものように、おれの予想はあたらなかった。
まさか千反田さん、辿り着けないとは!
(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
これが真の護身か。
いや、彼女が子供みたいに、目の前の気になる物にいちいちひっかかっちゃうキャラ、って表現なのは、わかってるつもり。でも、それだけなのか、とつい穿ったものの見方をしたくなる。
試験前とかに、ついつい部屋の掃除しちゃったりするじゃん。そんな感じでより道しちゃうんじゃないかな、とか。
入須先輩に、会いたくないのかな。千反田さんが"Why didn't she ask EBA"のエピソードをどう体験したかが問題だけど、どうだろう、入須先輩に会いたくなくなる、そんなことあったかなぁ。
それより、そもそも、千反田さんが12話の時点で「あんまり乗り気じゃなさそうだな……」なんだよね。
えいえいオー、と文集を売る気満々の気勢を上げた、その一方での、ローテンション。
本当は売りたくない?
人に頼み事するのが、嫌い、あるいは苦手、とか?
この辺が、このエピソード"Welcome to KANYA FESTA!"の真の謎と見た! 見たったら、見た!!
多分、タロットカードが盗まれた?事件が、折木君が扱う、表面の事件になるんだろうけど、それがどうつながって、千反田さんの、この不思議なサボタージュの理由を解く展開になってくるのだろうか。
見当もつかない。
 
11.5話で強調されて、印象深かったのは、千反田さんのアンバランスな裏表。
白ビキニ、着るか? 普通。
高校一年生が。しかも、着こなして、似合ってるんだぜ?
これはよほど修練を積んでいる。自分の容姿を把握し、整備し、活用する、プロフェッショナルの冷静さを感じる。
まあアニメの美少女キャラで水着回なんだから当たり前でしょ、という無粋なツッコミは、いまはおいておこう。
正直、画面の中を見る限り、千反田さんは取り立てて美少女ではない。福部君は「眉目秀麗」と言ったが、ぶっちゃけお世辞だろう。廊下で立ち話するモブの女の子と、さして差のないルックスじゃないか。無粋ついでで言えば、女の子がみんな可愛いのは、アニメだからのサーヴィスにすぎない……
それに引き換え、男子二人は、モブと比べると明らかに、群を抜いてイケてる。なるほど、お姉さんほっとかない訳だ。
だから、古典部はイケメン2人と十人並みの女の子2人、という、少女マンガな集団であると思っていた。
と、思っていたんだ、11.5話までは。
しかし、千反田さんが白ビキニ着ているのを見て、おれは自分の間違いを悟った。
この子は、ひょっとしてかなり老獪な社交性を身につけているんじゃないか。相当にシビアで計算高い対人感覚を持っていそうだ。だとしたら、仮に造作が十人並みでも、圧倒的に美人として、学内に降臨している筈だ。が〜まるちょばのパントマイム劇の例でも明らかなように、美人とはすなわち技術だからだ。
 
その割には、変な隙があるんだよね、千反田さんは。
勿論、おれが指して言っているのは、不用意に男子に顔を近づけてくるとかの所謂「天然」と呼ばれる特徴なんかではない。そんなのはチャームポイントの一つに過ぎない。やり過ぎると同性に嫌われやすくなるから、ほどほどにしとこうな、千反田さん。
おれが彼女の隙だと思うのは、例えば、自分が授業中激怒したことを、指摘されるまで思い出せないとか。
姉妹の理不尽な力関係を目の当たりにしながら、羨ましがってみせるとか。
文集「氷菓」を売るぞ!と拳を突き上げておいて、寄り道ばかりしているとか。
うっかりと建前と本音の対立が透けてしまう、言動の矛盾のことだ。
隙だらけに葛藤をさらしている。まるで、自分が本当は屈託を抱えていることを、誰かに察してもらいたがっているみたいに。
 
このエピソードは、伊原さんが中心みたいで、ということは、何故30部の注文が200部に化けるのか、何故お気に入りの同人誌が見つからないのか、というあたりが、きっと中心的な謎になる筈だと思っているのよ。おれは。
タロットカード拝借の件がキーとなって、この摩耶花の「うっかり」の背後に横たわる煩悶が解き明かされ、それが千反田さんの屈託と、傷付きの相似に共鳴していくのだろう。
その傷付きは、おそらく薔薇色と灰色、人と結びつこうと求めて傷付き続ける思いと、人々に噛み砕かれても何とか生き延びようと自分の殻を厚くして耐え忍ぶ生命力との、せめぎ合いのはざまに生まれている筈だ。
それは劇中では「夕べには骸に」の形で、語りなおされて、多重的に繰り返されるのだろう。
続きが楽しみだのう。

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