魔法少女まどか☆マギカ 感想その1
Always,sowhere,
someone is fighting for you.
ーAs long as you remember her,
You are not alone.
おれの心の宝物になる素敵な物語に出会った。 例によってネタバレ全開で、結果論的な感想を書きます。感想ですらないかもしれません。無論、評論とか考察などと呼べるものでもなく、誤解、謬見、妄想、なんかそんなような何かです。ご不快の方には陳謝。
3月11日。
おれは無事だった。 家も家族も職場も無事で、当日も普通に定時まで仕事して帰った。
それでも東京湾沿いの千葉県のコンビナートが爆発炎上して、天を焦がして何度も火球が上がるのが、職場からはっきり見えた。「明日をもしれぬ」という言葉が頭をよぎった。今日この日から、一日一日が、以前の日々とは意味を変えるのだと思った。
その日は「神のみぞ知るセカイ」中川かのんのファーストアルバム「Birth」が出てから一週間ばかりで、おれは久しぶりに、このブログに「かのんちゃんぺろぺろしたいお」みたいな頭の悪いエントリーをキメる寸前だった。
でも、もうできない。
できるわけがない。
おれは、もう一生、ゲームだのアニメだの、楽しんで見ることはないのだ、と思った。
そんな一日から二ヶ月も経たぬゴールデンウィークには「暇だなぁ。なんか見るもんないか」とニコ動とかあさっているのだから、自分の薄っぺらさがもはや可愛く思えるくらいだが、 むしろ人としていかがなものだろうか。
「魔法少女まどか☆マギカ」は放送開始前からタイトルロゴだけで「ピンクの文字に黄色い☆がつく向きはいささか……」とスルーしてしまっていたのだが、「血だまりスケッチ」なる風評が芳しくて、ちょっと見てみたいですな、くらいにイメージアップしていたのでした。
それでストリーミングでちょっと一話だけ見てみたんですけどね。
所謂イヌカレー空間のスタイリッシュな美しさにみせられて、結局、その日のうちに完走してしまったのです。
すごく面白かった。おれは幸運だ。
どこから書こう。
この物語の凄さを、どこから語り出せば良いのだろうか。
せっかく、結果論を書けるのだから、最終回から書こうか。おれの中で「魔法」という言葉の意味が書き直された、その最終回。
「さやかちゃんを救うには、何もかも無かったことにするしかなくて。
そしたら、この未来も消えて無くなっちゃうの。
でもそれはたぶん、さやかちゃんが望むカタチじゃないんだろうなって。
さやかちゃんが祈ったことも、そのために頑張ってきたことも、とっても大切で、絶対、無意味じゃなかったと思うの」
とんでもないセリフだと思った。
なんてことをいうんだ、このピンク髪。
おれには「私はあなたを救わない」って聞こえたんだ。
「何でもできるくせに何もしないアンタの代わりにわたしがこんな目にあっているの!!」ありったけの憎悪をこめて絶叫していた、親友に向かって。「ついてこないで」と拒絶された、あれが、この二人の今生の別れだった筈なのに。
おれがまどかの台詞をきいて勝手に想像したことを書きます。
━━そう、なんでもできるよ━━と。まどかはうなずいている。
全てをなかったことにもできる。さやかちゃんを魔女にしないことも、さやかちゃんの代わりに上条君の左手を治すことだって出来る。いや、そもそも、上条君の左手が障害を起こさず、恬淡と天才少年の人生を歩むままにすることさえ、できる、とはっきり言った上で。
━━さやかちゃんを救わない━━と。
━━救えるけど、私はそうしない━━とまどかは言う。
それは問いかけだと、おれは感じた。
━━さやかちゃんが魔法少女になったのはどうして?━━
━━救われたかったからなの?━━
「さやかちゃんが祈ったことも、そのために頑張ってきたことも、とっても大切で、絶対、無意味じゃなかったと思うの」
その祈りが必ずや呪いに終わるとしても。その呪いさえ「とっても大切で、絶対、無意味じゃなかった」のではないかしら、と。いや、むしろ、何より呪いこそ、無意味であって欲しくない。呪いが、絶望が、どんなに醜く苦しいものだとしても、だからこそ、意味のないものだとは思いたくない。
まどかの願いによって、魔女が存在しなくなった新しい宇宙では、どうも魔法少女の戦死が減ったみたいで、マミさんも杏子ちゃんも生き残っている。つまり、それだけ、魔法少女の最期が、ソウルジェムが濁り切って消えて行くものになる確率が、上がった筈だ。
それはどういうことか。おれは想像する。
まどか神は言っている。ここで死ぬ運命ではないと。すべからく魔法少女は、絶望に濁り、世界を呪って魔女に堕すまで、生き続けるべき運命なのだ、と。
キュゥべえなんかより、よほどひどい。あの謎の白い動物は、宇宙の物理法則を説明するだけだ。ただの解説で、キュゥべえ自身には意思も選択も無い。しかし、まどかは、魔法少女の祈りを、絶望を、怒りを、悲しみを、呪いを、全て知り尽くし、味わい尽くしながら。
なお、彼女自身の意思で、そのようにあれ、と望むのだ。
怒れ。悲しめ。絶望せよ。祈れ。そして呪え。まどか神は呪いを嘉したもう。
なんてことを想像してしまうおれは、勿論、いつものように間違っているのですが。
だって、脚本の虚淵玄がどっかの雑誌のインタビューで答えていた。まどかによって新生した宇宙で、マミさんの所謂「円環の理」に召されて消えたさやかちゃんは、決して絶望していた訳じゃない、って。ただ、エネルギーを使い切って、燃え尽きただけなんだって。
そうか、わかった。おれは間違えております。ご免なさい。分かったけど、それはそれとして、おれはそれでも、なお、あえて誤読しつづけよう。
だってさ。「あたしの指なんていくら動いたって何の役にも立たないのに」って自嘲から始まる、さやかの祈りが、呪いに終わらぬ筈が無い。
彼女は、いざ、自分がソウルジェムとなって、肉体が単なる抜け殻になって、取り返しがつかないと知るまで、「何の役にも立たない」はずだった自分の体が、本当は自分にとってどんなに大事なものだったか、全く気がつかないままだった。
さやかは自分を知らないし、上条君のことも、仁美ちゃんのことも、わかってない。「他人の都合を知りもせず勝手な願い事をしたせいで」自分が家族を壊したのだ、と杏子に言われても、未だ分からない。
そんな子が、何回繰り返しても、後悔のない、自分を呪わない願いを願えるとは、おれには想像できないんだ。
絶対「恭介の腕一本に自分の人生全て、この代価は高過ぎた」と思わなかった筈がない。 おれは想像する。彼女は後悔した筈だ。「あの時、仁美を助けなければ」ってほんの一瞬だけだとしても、思わない筈がない。 血の涙流して後悔した筈だ。
そんな後悔をする自分が、どんなにショックだったろう。恭介の幸福を心から願っていた筈だった。彼の音楽を何より愛していた筈だった。仁美は大事な友人だった筈だ。人々の命を救い、正義を守る魔法少女であることは、誇りだった筈だ。
しかし、自分の心が、それを裏切るのだ。後悔してしまう。腐り切った汚臭を放ちながら「あの時、仁美を助けなければ」と思ってしまう。
キュゥべえは「彼女たちを裏切ったのは、むしろ自分自身の祈りだよ」と言ったけど、さすが、感情がないという生き物(?)だけあって、分かってない。魔法少女たちは裏切られるのではない、裏切るのだ。はじめに自分が「魂を差し出しても」と祈った、神聖な願いを、自分自身の、ちっぽけで卑劣な嫉妬が、自己憐憫が、裏切っていく。
憎んだろう、自分の卑しさを。さやかちゃんはさぞかし呪ったろう、完璧な正義の味方であり得ない自分を。
「……あたしって、ほんと……バカ」
そして、自分を呪って、魔女になる。
「当然だよね(◕‿‿◕) 」
そう、そこに誰の企みもない。物理学的の当然の帰結に過ぎない。冷酷に精確なこの宇宙は、彼女の祈りも呪いも忖度しない。彼女が守りたいと、戦ったこの世界は。
「ねぇ、この世界って守る価値あるの?あたしなんのために戦ってたの?」
さやかちゃんの問いに、答えは返らない。世界は「意味」とも「価値」とも関係なく、ただ歯車のように因果が廻る、機械的な舞台装置でしかないのだから。ラスボスのワルプルギスの夜が「舞台装置の魔女」なのは、偶然ではないだろう。
誰が、正しく願えるだろう。
「どんな希望もそれが条理にそぐわないものである限り、 必ず何らかの歪みを生み出すことになる。やがてそこから災厄が生じるのは当然の摂理だ (◕‿‿◕)」
条理に順いて叶うなら、誰もわざわざ願いごとなどするものか。そんなものは単なる予定であって、希望ではない。
それが希望である限り、条理から外れて行く。
「そもそも願いごとなんてすること自体が間違いなのさ (◕‿‿◕)」
そこが、全ての魔法少女が立つ正念場。
そこが、まどかの祈りの始まるところ。
希望をもって、でも、信じきれない。後悔する。迷う。疑う。
それは悲しい。
それは苦しい。
自分に絶望するほどに。
でも、それって、そんなに、悪いことかな。
一つの希望を、信念を、信じて守って、揺れず動かず生きて生きたい。そんなスーパーヒーローみたいな、正しい生き方してみたい。
でも、出来無いでしょう、それが普通でしょう。出来無いからこそ、そこにしびれて、憧れるんでしょう。
いいじゃない、普通で。
いや、むしろ普通がいいじゃない。正しく生きられない、かと言って開き直り切ることもできず、迷い、傷つき、それでも諦めることも出来無い、どっちつかずで、はっきりしなくて、ぐちゃぐちゃ、どろどろで、そこが良いんだ。そこが、愛おしいんだ。
おれには、まどかが、そう言っているように聞こえる。おれのひとりよがりな聞き方だとは思うけど、そんなさやかちゃんが好きだよ、って、そんなだからこそ、大好きなんだよ、って。まどかはそう言っている。
まどかが「 この未来も消えて無くなっちゃう」という「未来」とは、単に「上条君が演奏できる未来」ということではないと、おれは思った。宇宙の法則を書き換えるほどのまどかの力なら、さやかの思いや犠牲を必要とせず、突然奇跡が起こり上条君の腕が治って、みたいな強引な展開だって、不可能じゃなかったんじゃないか、おれにはどうしても、そう思えてしまうから。
おれの想像にすぎないけど、まどかが変えたくなかったのは、願いの結果ではなくて、過程だったんだろう、と。さやかが苦しみ、悩み、親友を罵り、自身を蔑んで、世界を呪って、自ら魂を真っ黒に濁らせていく、その過程。
それが良いことだなんて、思ったわけではないと思う。そんな上から目線で、善悪だの損得だの計算して、これが正解ですよ、とさかしらな答えを出したのではないと思う。
ただ、まどかは、寄り添いたかった。
抱きしめたかった。
全世界の、あらゆる時代の、魔法少女たち。それぞれが信じた祈りのために、血を流し、肉を削って、そして報われず、自分をあざ笑い、荒野で孤独のうちに呪いに成り果てる、数多の魔法少女達を。
その子達の、最期の、絶望の最悪のその瞬間に。
あなたのことを、知っている、と。
その戦いに意味はなく。でも、今、ここで、わたしがあなたを知っている。あなたの祈りがただ呪いに終わるものだとしても、世界が、ために戦うに値しないものだとしても。それでも、たった一つ、信じて良いことがある。
あなたは一人ではない。
あなたを、抱きしめる者がここにいる。
だからまどかは、何も変えないのだ。世界は相変わらず呪いに満ち、魔獣は後を絶たない。魔法少女のソウルジェムは黒く濁り果てるし、上条君は仁美ちゃんに取られてしまう。
それでも、世界を変えてしまうなんて、とんでもない。魔法少女達の連綿たる祈りと呪いの積み重ねの末の世界だ。こうだった方が良かった、ああだった方が良かった、傍目八目、結果論、あれこれ言うことは簡単だけど、その瞬間ごとに込められた魔法少女達の思いの一つ一つを思うなら、とても軽々に改竄できるものではない。
いま、ただひたすらに祈ろう。斯くあるが如く、斯く、あれかし。
ああ「魔法」ってこういう意味だったのか、と、おれは初めて知った。
何も、変わっていない。しかし、何もかも変わった。魔法少女として生きる意味が、根本的に変わった。その躊躇い、その後悔は、嘗ては自分自身への裏切りで、呪いだった。しかし、まどかが彼女たちを看取るとき、その意味は変わる。全てが、とっても大切で、絶対、無意味じゃないことだったんだ。
とっても残念なことに、例によって、それはおれの誤解なんだけどね。
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