Fate/stay nightの話の続き その2
Fateは否認の物語である。
と、おれは個人的に思っているのですけども。
おたく的に言うならツンデレの物語? 言行不一致の物語と言っても良い。やせ我慢の物語と呼んでも良い。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」という言葉があるけど、まさにそれだ。
Fateで誰かが何気なく「涼しい」と言ったら、それはすなわち、その人がその瞬間、火で炙られるような苦痛を耐えているということなんです。
同時に心頭を滅却するような、困難で、苛烈で、大抵は自虐的なやり方で、その感覚を抑え込んでいる。抑え込んでいることを忘れるほどにまで。
以下ごついネタバレありで、Fate感想等。
しょっぱなからそうだった。
凛がアーチャーを召還するあのプロローグ。
ヒロインの一人称で始まるアレが、実に強烈でした。
父親を回想して「人格者だった」「自分を愛していた」と言うんです。
しかし、頭をなでてもらったことも滅多に無く、笑顔さえ見せてもらったことが無い。娘はなんとか父の笑顔がみたくって、ジョークの練習をして、練習をして。それでも、それを披露する機会が得られない。
え?
その父が、もしも自分を人間として、娘として思う言葉を遺してくれたなら、自分は魔術師にならなかったろう、と。
本編で「自分は楽しんでやってきた」「厳しいけれどやりがいがあった」と誇らかに断言し、鮮やかに自らを魔術師と規定する遠坂凛の、それがスタートだと言うのですよ。
え? え?
何言ってるか、分かんないよ、遠坂さん。
あなたのお父さん、血を分けた実の娘を、ただ遠坂家の魔術刻印のキャリアとしてしか扱っていないかのように聞こえるのですが。
確かに、大事にはしていたかもしれない。しかし、それって、父親としての娘への愛情……?
しかし、そこを遠坂凛は考えない。
不思議と、全く考えない。
子供のとき、って一遍くらい親の愛情を疑うものだ。と、おれは思っていたんだけど。自分はこのうちの本当の子供じゃないんじゃないか、本当の両親は別のどこかにいるんじゃないか、とかさ。
そんな夢想にふけること無く、遠坂凛は、父はじぶんを愛してくれていた、と断定する。
まるで、疑うことを恐れるように。
もしも断定しなければ、何か恐ろしいことが起こるかのように。
おれは想像します。遠坂凛の孤独を。怒りを。悲しみを。
そして、弱さを。
弱過ぎて、強がらなければ生きていけないほど弱い少女の姿を、想像するなと言う方が無理でしょう。
このプロローグが、ものすごくイマジナティブで、わくわくするんですよね。
確かに、人間、ほんとうに涼しくて「涼しい」と涼しがるような素直シチュエーションなんて、大人になってきたら、ほとんど無いじゃないですか。
この物語は、思ったことをそのまま口に出しているような、純真な子供たちの物語ではないんだぜ、って、読者に向かって誠実に宣言しているプロローグだと思うんです。
矛盾と二律背反をお腹いっぱい孕んだストーリーがこれから始まりますよ、書いてある文言を、そのまま鵜呑みにするんじゃありませんよ、ってね。
しかもその語り口が良い。
「大人はみんな嘘つきさ」なんて、ハッキリは言わないんです。でも、わざわざプロローグという印象的な形で、これからの物語がどんなものになるのか示している。作品自体のスタイルにも、読者にも、どちらに対してもフェアだと思いました。好感を持っていいのでは?
だから、設定が裏返ったり、不可能な筈のことがぽんぽん起こったりするのは、当然なんです。
少なくとも、おれは、そう受け取って読み進めました。だから、凛がモノローグで言っていることとか、大半は真に受けていません。
ただ、これを書かれた時点で、作者奈須きのこさんが、どこまでそういう構造を意識されていたのかは、分かりません。
勝手で失礼な想像ですが、この時点ではまだ自覚的には書いておられなかったのでは無いかという気がしています。
その話は追々。
唐突に我田引水してみたい。
うちのブログのメインタイトル”do not trust over thirty”も、おおむね「大人を信じちゃいけないよ」というくらいの意味です。
Moon ridersというバンドは、メンバーが全員30歳を過ぎてから、このタイトルのアルバムを出しました。かっちょいいですな。
この言葉のそもそもの言い出しっぺは、ジェリー・ルービンという思想家というか政治活動家というか、ヒッピーな人でしたが、彼は20代のときにこの言葉を言ってます。そして、自身が30歳になったときには”Don’t trust over forty”と言い直していました。
この往生際の悪さも、大人っぽくってかっこいいよね。
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