Fate/stay night 二次創作小説 凛×士郎 「常に余裕を持って優雅たれ」
というわけで映画公開記念でSSです。
致命的なネタばれがあります。ご注意ください。
これずっと前に書いて、どこにも出さなかったやつです。キャラ解釈が世間様の常識からずれている感じがして、嫌がる人いるかもと思って。
でも、まあ、そろそろ皆さん冷めてきているかな、気にする人もそんなにいないかな、と思ったので出してみます。
お目汚し失礼。
舞台は、衛宮邸、UBWグッドエンド後、3月末。春休みのある朝です。
常に余裕を持って優雅たれ。
遠坂家の家訓だという。はじめて聞いた時は、思わず笑みの形に頬が崩れた。
らしい。らしすぎる。
「……なにがおかしいのよ」
こっそりと、でも隠しきれぬ誇りを湛えて、その家訓を教えてくれた遠坂凛が、俄かに殺気を発して、睨みつけた。
彼女にしてみれば、たった一つの、父の形見だ。
彼女の父が遺した魔術がらみではないものは、その格言とも諺ともつかぬ、曖昧な家訓しかない。
士郎は無理にも顔を引き締めて答えた。
「いや、いかにも遠坂らしいと思ってさ」
衛宮家の士郎の部屋である。
文机と布団しかなかった部屋も、凛が入り浸るようになって早一ヵ月余。彼女の持ち込む様々な小物で、やや雑然とした空間になりつつある。
日曜の朝。鎧戸の外のかはたれの気配。
以前に比べて、信じられない程朝が遅くなった。そろそろ日が昇ろうというのに、まだこうしてぼんやりと布団の中でぬくもりを楽しんでいる。
一人で寝てもやや窮屈な布団だったから、同衾する余裕はない。
二組の布団を用いる方法を、何度か提案してみたことがある。
凛もその度に賛成するのだが、なぜかいつも、いつの間にかその話は解決済みということになっており、布団は一組のまま増えたことはない。
その結果、一組しか無い布団は家主である士郎が使い━━━━凛は、横たわる士郎の体を敷き布団として使っていた。
今も、士郎の胸板に両肘を立てて頬杖をつき、むう、となおも彼女は、示威的に睨みつけてくる。肘骨の先端で肋骨をぐりぐりえぐる。少々痛い。
『私は怒っているのよ』という仕草だが、ほんの少し顔を傾けて、拗ねたような上目づかいにしているのは、『でも本気じゃないんだからね』というサインでもある。拗ねたふりして甘えたいのだ。
士郎としては勿論、彼女を甘やかすことに吝かではない。
だから、ことさらに狼狽した様子で言い訳してみせた。
「だって、遠坂はいつも余裕綽々で、優雅じゃないか。それは遠坂だけかと思ってたんだけど、先祖代々だったなんて、流石だなって思って。」
何が流石なのか意味不明だが、あまり明晰な発言も自分らしくない。内容よりも、語調に素朴な畏敬と感嘆の響きを込めることに気を付けた。
士郎の態度から、自分が主導権を持っていることを確認して安心したのだろう、遠坂凛はなおも睨みつけながらも、そのネコ科肉食獣系アイラインに嗜虐的な遊び心をひらめかせた。
「あーら、優雅だったのがご不満みたいな口ぶりね。あかいあくまの先祖なのに、期待はずれだったかしら?」
「なっ!……なんでそれを……?」
「セイバーに聞いたわよ。仮にも自分の魔術の師匠に向かって、随分と面白いあだ名をつけてくれるわね、衛宮クン?」
わざわざファミリーネームで呼びかけて『今はいじめっ子モードよv』と宣言してくる以上は、衛宮士郎もいじめられっ子モードで受けて立たねばなるまい。
「いや、あの、それは……セイバーの裏切り者めっ……」
「うふふ、彼女は今や、私のサーヴァントだもの。主従のつながりは、余人には窺い知れないほど、深いものなのよ」
遠坂凛は、自分でサディスティックだと思っている形に口元を歪めて、楽しそうに笑った。
士郎から見ると、猫じゃらしを威嚇する子猫みたいな笑顔に見える。見とれながら、士郎は、話の流れが変わったことにホッとしていた。
お互いにとって、親の話題は微妙である。
前聖杯戦争の折、切嗣と遠坂の父とは敵同士であった。
そして、切嗣は生き残り、遠坂の父は死んだ。
直接の対決はなかったかもしれない。しかし、あったかもしれない。言峰は、自分が遠坂の父を殺したと言ったが、どの程度まで真実か、詳しい経緯は不明である。セイバーに尋ねれば分かるだろうが、勿論確かめる気などない。
遠坂は気にしまい。
魔術師の戦いに親子の情だの、仇だの、入り込む余地はない、と。
自分の父は自ら選んだ戦いで、覚悟の上の代価を支払っただけだ、と。
必ずこの娘は、そう言おうとするだろう。
そして、勝気な笑みを浮かべて見せるに違いない。自分が何を圧し殺したのか、自分自身にさえ気づかせないかもしれない。
それが、「常に優雅たれ」ということなのだ。
不意に愛しさが込み上げて、凛を抱く手に力が入った。
「ちょっ……なによ……ダメよ、朝からそんな……」
士郎の手の動きを誤解して、遠坂の目が泳ぐ。しかし、語調に拒否の色は無い。むしろ、期待とほのかな欲情の湿りが差している。
「なんでさ?」
問うておいて、答えを待たずに唇を吸った。
そのまま体の上下を入れ替えて、清潔だがくたびれたシーツの上に、凛を押さえつけた。
果たして、彼女は抗おうとしなかった。
おしまい。
読んで下さってありがとうございました。
戦後わずか一ヵ月ちょいで、士郎がかなりアーチャー=エミヤ化している設定です。
エミヤは心眼(真)というスキルを持っている、ということになっていたじゃないですか。
士郎は朴念仁キャラです。あるいは、そう装っている、自分自身をも欺くほどに。
しかし、エミヤは違う。心眼が開いている。他人の気持ちも掌を指すように見抜く。そんなことが可能になるほど、冷徹に、自分が何者か知っている。
UBWでは、凛も、士郎も、ランサーも、キャスターも、悉くエミヤの企みに乗せられ、操られたように動いてしまっていました。
勿論、エミヤが、生前、士郎だった時分に、そのシナリオを体験した、っていうのも大きいと思います。
でも、一方には、そうやって相手の心理を読み、自分の世界に引きずり込んでいく、というのがエミヤの本来の能力だったのじゃないかしら、とも想像しています。「固有結界」ってそういうことなのでは? おれの想像の中では、生前のエミヤ、英雄衛宮士郎は、諸葛亮孔明とかヤン・ウェンリー系の深慮遠謀型ヒーローだったということになっています。
という、廚くさいおれ設定がきっついので、恥ずかしくて、これまでどこにも出せませんでした。
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