Fate/stay night 二次創作小説 アーチャー 「柳洞寺」
とか言いつつ、映画はまだ見に行っておらぬのですが。
いつものようにネタばれは致命的です。ご注意ください。
舞台は、柳洞寺境内。UBWで、キャスターとの戦闘を凌いだ直後です。
━━あっちゃー
振り抜いた切っ先に、ぶっつりと文字通り致死的手ごたえを感じて、エミヤは舌打ちした。
━━また、殺っちゃったか。
本来なら、柳洞寺の山門から飛び出し、石段をセイバーの足もとまで転げ落ちていかなければならない筈の衛宮士郎が、すぐ目の前で境内を汚していた。
━━まるで銀杏の葉っぱだな。
ざっくり割れた胸郭から、いろいろ、はみ出してはいけないものをはみ出させ、見る影もなく服と地面をあかぐろくしている士郎は、アーチャーの鷹の目を以て見ずとも、あからさまに死んでいた。
あ、来た。
くわーん、と襲いかかってくる既視感。
そう言えば、既視感来るんだったよな、と、既視感自体に既視感を覚えてしまうのだが、これまで手に掛けた様々な士郎の死にざまが、どっと押し寄せて来る。
「これまで手に掛けた」というのは、本当は、あまり適切な表現ではない。
このエミヤ自身が殺した士郎は目前の一人のみだからだ。
しかし、多元並行世界の冬木市聖杯戦争でも、じゃんじゃんバリバリ、エミヤたちは士郎たちの死骸を積み上げていて、その記録の上澄みが記憶のような感触で流入してくるのだ。
なぜ、士郎を殺すと、こんな既視感が生じるのかは分からない。
多分、決定的に自分が架空の存在になってしまう、ことと関係があるのだろう。
士郎が将来英霊になる可能性が残っているうちは、自分も同じ時間軸上に存在根拠をもつ、過去出身の英霊と同じ存在である。
しかし、その可能性がなくなった時点で、アサシン佐々木小次郎のような……いやそれよりも遥かに脆弱な基盤に立つ、架空の存在になってしまう。
しかし、我ながら、よく殺したものだ。17歳の自分主演のスナッフムービーオムニバスの走馬灯に、やや圧倒されつつ思う。
どうせ士郎は無限だと思って、ちょっと雑にやりすぎなんじゃないの。自分の命を何だと思っているのか。
いやー、それにしても。
━━よわっちぃ。
弱すぎないか、17のオレ。
夫婦剣を胸中の世界にしまいながら、士郎の死骸の近くに座り込んで覗き込んでみる。
くそーやっぱり死んでる。
なんか傷付くなぁ。なんだかんだ言って、最盛期にはいっぱしの英雄扱いも受けた身で、ひそかに結構、自信あったんだけどな。
そんな自負も誇りも粉々にしていく、脳裏に自分のNG集が延々再生される。
いや、認めよう。これは少年のオレの失敗でもあるが、今のオレの失敗でもある。
例えば、今回は正直、衛宮士郎は立派に自分の役割を果たしていたと思う。
むかつく甘っちょろさも、実力を弁えぬ無謀さも、世間を知らぬ偽善ぶりも、実にいい具合だった。
今回は、オレの踏み込みが早すぎたんだ。
多分、時間にしたら百分の一秒単位のずれだったと思う。
やつが飛び退るより、ほんの一瞬早く、陰剣干将を振り下ろしてしまった。
っていうか、無理だろ。
ちょっと魔術かじったくらいの高校生を、サーヴァントであるオレが、殺さないように、なおかつ本気の殺意を感じさせる迫力で斬るとかさ。
ちっくしょう、ここまでうまくやったのになぁ。
「あぁ〜あ」
大きく声を上げ伸びをして、赤い聖骸布が汚れるのも構わず、境内の砂利の上に身をのべた。ひっくり返って見上げる2月の澄んだ星空。
正直、キャスターとかすごい手強くて、生前に士郎として手のうち見てなかったら、相当やばかったと思う。
そこもなんとかクリアしたのに。
「理想を抱いて溺死しろ」も、直前まで練習していた通り、上手に言えた。
この前、噛んじゃって「理想を抱いてでちししにょ」とかやっちゃったのは、恥ずかしかった。
それ聞いて、士郎のヤツが微妙な表情した瞬間に、英霊になる未来が消えた、ってのはすげー痛かったっス。
オレの一生を左右した名台詞だから、しっかり記憶に残るように。
でも、聞いてるほうのオレは、背後から斬りつけられて、重傷負った直後だから、印象に刻むこむように言うのは意外と大変だったりする。
あれがうまく言えて、ちょっと気が弛んじゃったのかな。
実は、この柳洞寺は結構な難所なんだよな。
圧倒的多数の士郎は、やっぱりアインツベルンの決闘で殺しちゃうんだけど、ここの死亡率も割と高い。
ここらは士郎の責任と言うよりかは、こっちの責任だから、凹むよ。
まあ、ぶっちゃけ、わざと殺しちゃうケースもある。我慢出来なくて。
っていうかさ、この衛宮士郎って奴、本当にオレ?
なんか自分で思ってたのと、違うんですけど。
オレってもっと、健気で、不屈で、熱血で、不幸にもめげず前向きで、思わず力を貸したくなるような主人公的魅力に溢れていたですよ?
こんなヘタレで中途半端で根性なしで、物考えてなくて、甘ったれで、そのくせ生意気で礼儀知らずで料理下手でむっつりスケベで、生きる価値のないクソじゃなかったっスよ?
もう、顔見るだけで恥ずかしくなる。マジ死んだ方がいい。実は、出会いがしらに思わず斬り殺したのも、100回や200回ではきかない。
……山門の外では、セイバーとアサシンの斬り合う音が、まだ聞こえる。
セイバーにも士郎の死が伝わったはずだろうに。
もはや戦う意味がないとしても、亡き主のために最後の瞬間まで騎士たらんと戦う少女だ。悲鳴も嗚咽も、闘志に変えているのだろう。
盛り上がってるんだろうな、石段では。
オレはもー関係ないけどね。
ううっ寒。二月の山寺の寒さは、肉体なき英霊にも結構堪える。
どっしよっかなー、これから。やること無くなっちゃった。セイバーかアサシンに殺されて、さっさとリタイアしちゃおうかな。
しかし、現代の高校生が、たとえちょこっと魔術に触れようが、英雄となるのがいかなる奇跡かを、しみじみ感じる。
何憶、何兆、いやそれ以上の衛宮士郎の可能性の中で、英霊の座を占めたのは、オレにいたるこの可能性、たった一つだけだったのだ。
まあ、オレがこうしてここにいる以上、オレのうちの誰かが、オレにとってのアイツの役を、今、どこかの並行世界で士郎相手に演じているんだろう。
必ずどっかの誰かがやっといてくれるんだと思うと、人情として、じゃオレは適当でいっか、とか、つい思っちゃうよね。そのどっかの誰かも結局オレなんだけど。
当時は、アイツ……アーチャーは圧倒的で、自信たっぷりで、躊躇うことも、戸惑うことも、知らぬ気に見えたものだ。
まさか楽屋裏が、こんな行き当たりばったりだったとは。自分がなってみるまで思いもしなかったよ。
20歳も年取ったような気分で、よっこいせ、とゆっくり起き上がってあぐらをかいた。
起き上がれば、自分の死骸が目に入る。
やっぱり変わらず死にっぱなしである。
一体、この二週間で、オレはどれほどのオレを殺したのだろうか。
思えば、この無限の平行世界のほぼ全てが、エミヤ不在の世界なのである。ほんのわずかな衛宮士郎の生き残った世界においてさえも、ヤツは、殆ど必ず、オレにはならない。
この世界も、ついさっき、オレの世界ではなくなった。まだ聖杯の魔力に依って現界しているが、この戦争が片付けば、二度と召還されることもない。
ああ、そうか。今、ここにいるオレは、もう行き止まりだ。
生きながら、もはやムクロなのだ。
━━なあ、おい。
死骸の間抜け面に声も無く呼びかける。
生きた骸と死んだ骸。行き止まり同士の気安さだ。
━━よくぞ死んだものだよな、オレたちは。
オレたちのムクロを積み上げれば天に至ろうか。
……いや、その階は大地を遥かに離れるだろうが、それが天上に至るとは限るまい。その先にあるのはオレに至る道だ。
その、たった一人、目の前に死んでいる一人が辿り着けず、ここにうずくまる一人が通り過ぎて来た、あの一人。
全ての衛宮士郎は、あの一人のために。
━━あいつ。まるでロックスターみたいだな。
目の前の若い死骸が答えたように思われた。
どこかで、血まみれたかぎ爪の、犬に似た獣どもが、ささめきあうような錯覚を覚えた。
ああ、これもまた。
既視感。
━━そうだな。まるでロックスターみたいだな。オレたちは。
自分で言ってて吹き出しそうだゼ。笑わせんなよ、小僧。
おしまい。
読んで下さってありがとうございました。
アーチャーの中の人の話。
おれ設定てんこ盛りですみません。
おれの中では、アーチャーのキャラって、英霊エミヤが小芝居打っている、という設定なんです。アーチャーファンの皆様、ほんと済みません。
生前の英霊エミヤは、あんな人ではなかったんじゃないか、と。
« Fate/stay night 二次創作小説 凛×士郎 「常に余裕を持って優雅たれ」 | トップページ | Fate/stay nightの話の続き その2 »
「ゲーム」カテゴリの記事
- ドラゴンクエスト10の話(2012.09.06)
- オーディンスフィア 二次創作小説 その10 グウェンドリン×オズワルド 「海の日」(2010.07.19)
- カルネージハート エクサ Carnage Heart EXA(2010.07.05)
- Fate/stay nightの話の続き その6 凛と桜(2010.06.24)
- Fate/stay nightの話の続き その5 遠坂凛(2010.06.22)
「二次創作」カテゴリの記事
- TVアニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 続」1話と2話の感想(2015.04.16)
- 我知らず、雪ノ下雪乃はわかるものだとばかり思っていた。(後)(2014.04.08)
- 我知らず、雪ノ下雪乃はわかるものだとばかり思っていた。(前)(2014.04.07)
- オーディンスフィア 二次創作小説 その10 グウェンドリン×オズワルド 「海の日」(2010.07.19)
- Fate/stay night 二次創作小説 士郎×凛 「いつかの少年のようだった」(2010.06.20)
「Fate/stay night」カテゴリの記事
- Fate/stay nightの話の続き その6 凛と桜(2010.06.24)
- Fate/stay nightの話の続き その5 遠坂凛(2010.06.22)
- Fate/stay night 二次創作小説 士郎×凛 「いつかの少年のようだった」(2010.06.20)
- Fate/stay nightの話の続き その4 アーチャー(2010.05.21)
- Fate/stay nightの話の続き その3 アーチャー(2010.05.20)
この記事へのコメントは終了しました。
« Fate/stay night 二次創作小説 凛×士郎 「常に余裕を持って優雅たれ」 | トップページ | Fate/stay nightの話の続き その2 »
コメント