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2008年2月11日 (月)

オーディンスフィア 二次創作小説 その7 グウェンドリン×オズワルド 「小鳥の境地」

久しぶりのSSです。っていうか、更新自体が凄い久し振りです。ご無沙汰しております。

さて、お目汚し失礼いたします。

舞台は辺境の古城、「ワルキューレ」終章から数日後、「終焉」の前です。

では。

 



 

張り出す石舞台を蹴って、長靴が鳴った。

一条の風を選んで、その上にふわりと腰かける。森の吐息を含んで、風はなまめかしく湿っていた。その脇腹を腿でそっと絞ると、風は小さく嘶いて、ゆらりとグウェンドリンを高く押し上げた。

ほほが大気の脈動を感じる。風切羽が慣れた唸りを謳う。

古城の尖塔の方が、自ら腰を折るかの様に、高さをグウェンドリンの目の高さに並べる。

軽く手を伸ばし、避雷針を掴む。

そっと翼を折りたたむと、居眠りから覚めた様に、重力が自分の仕事を思い出したようだ。グウェンドリンは尖塔の屋根に降り立った。

古城でもっとも高い塔の上。蒼穹が余さず、その輝く青を顕していた。

━━良いお天気。

地上の塵埃は遠く。

大気の匂いが、この高みを、懐かしい、鳥の領域であると、教えてくれた。

知らず、風の匂いを胸一杯に吸い込む。渦巻く、線が、流れが、大気の呼と吸が。彼らの姫を再び迎えて、歓迎に沸き立つかのようだった。

━━ああ。

飛びたい。

血と、臓物と、削りあう鉄の焦げる臭いに満ちた、戦場の狂える風ではない。

この、穏やかな、それでいて抑えがたく迸る歌のような風たちと。

躍り上がって、あの空と大地の境まで。

飛んでいきたい。

━━……。

今にも、尖塔の屋根を蹴るかに見えた彼女の長靴は、しかし、ためらって。

ここからでは小さく。しかし、鮮やかに。見下ろすバルコニーに、彼の銀髪がそよいでいるから。

一歩、踏み出して、まっすぐ落ちた。

 

「どうだった、グウェンドリン。着心地は?」

二三の風にそっと抱きとめてもらいながら減速して、すたん、とバルコニーを踏んだワルキューレに、その夫は眩しそうに目を眇めて訊ねた。

「ええ、素敵です、オズワルド様」

改めて、自分の姿を見下ろしてグウェンドリンは満足そうに微笑んだ。

オズワルドが自らデザインして、プーカの仕立て屋に頼んでいたのだという。彼女の青い翼を引き立てる、青灰色を基調とした「飛行服」だ。

━━飛ぶときは、いつも鎧じゃないといけないのかい?

あるとき彼女の夫は訊いたものだ。

━━だって、ドレスでは、傷んでしまうではありませんか。

なにげなく答えた言葉が、彼には、「別に着るものが欲しい」という意味に聞こえたようだ。

今朝になって、突然、差し出されたのがこの服だ。

━━まだまだ試作だから、君の忌憚ない意見を聞かせてくれ。

袖のゆったりした白いシャツに、紺に近い青の、丸袖の胴衣。細身が引き立ち、グウェンドリンの、小鹿のような軽捷さが強調されていた。デザインはほぼ男物のそれで、グウェンドリンのシャープな顎の線とあいまって、感受性鋭い少年のような雰囲気になった。

一方、襟元を、銀糸の刺繍が、グウェンドリンの知らぬ花の図柄で繊細に縁取りをしているのが可愛らしい。

ひざ当てと連なった長靴も、この服と揃いで誂えた物らしい。艶消しされたこげ茶の革が、暖かみを醸している。膝のあたりできゅっと締まって長靴の中に消える、ほんのり青みがかった明るい灰色のキュロットは、膝上から柔らかくゆったりとドレープをはらみ、腰のあたりでふんわりした曲線を描いていたが、腰に付けられたワルキューレの翼を邪魔せぬよう、豊かな中にも抑制が利いていた。

女性の服ではない。むしろ男性のものに近い……いや、それも違う。似たものを見たことがない。

ワルキューレの服だ。そう呼ぶしかない。

「素敵です。……本当に」

翼をそっと開き、キュロットの色と並べる。陽の下で、ますます映えるようだ。

「寒くはないか? 動きづらくはないか?」

オズワルドが近寄ってきて、尋ねる。縫製を確かめる職人の指先で、グウェンドリンの袖を取ってひっくり返したりしている。

「ええ、とても暖かくて。軽くて、柔らかくて、鎧とは比べ物になりません」

鎧が嫌いなわけではなかった。生涯をかけて、鎧の中に自分を見出してきたのだ。その重さも、固さも、冷たさも。今でも、自分の大事な半身と思う。

それは変わらない。しかし、今は、もう一方の半分の時間なのだ。

見上げるとオズワルドと目が合った。彼の微笑みが、風に少し冷やされた彼女の身体を、芯から温める。

風よ、許してほしい。私はもう、お前達と、どこまでもは行けない。

「それなら良かった。どこか手直しすべきところはないだろうか、グウェンドリン」

「いいえ、このままでとても素敵です」

もう一度きっぱり言って、オズワルドの目をまっすぐ見ながら、グウェンドリンはすなおに笑った。

「ありがとうございます。オズワルド様」

「いや……君が喜んでくれて、俺も嬉しい。やはり君には笑顔が似合う。その顔が見たかったんだ」

「最近は、私、いつも笑っていると思いますけど」

おかしな方、と思わず声をあげて笑ってしまう。

そんなグウェンドリンを眩しげに見つめるオズワルドが、ゆっくり彼女の腰に手をまわし、抱き寄せる。グウェンドリンは、なおもくすくす笑いながら、そっと体を預けた。

「そうだね」

彼の胸郭にくっつけた頬骨を震わせて、彼の声がじかにグウェンドリンの頭蓋に響く。

そして、オズワルドは彼女を優しく抱きしめたまま、数瞬、じっと黙った。

何かを躊躇うように。

オズワルドには、時折、そういうことがあった。さほど長い時間ではないのだが、グウェンドリンには、そのほんの数瞬が、ときどき変に恐ろしく思えるときがある。何も怖がることなどないのだけど、オズワルドが急に消えてしまいそうな感覚に襲われるのだ。

彼女がオズワルドの背中にまわした腕に、思わず少し力が入ったことに、気づいてかどうか。オズワルドが空を振り仰いで言った。

「今日は、空が本当に奇麗だ」

落ち着いた声。静かな口調。オズワルド様はいつも通りだ。ほっと力を抜きつつ、彼女はちょっと自分に腹を立てる。あなたは馬鹿な子だわ、グウェンドリン。オズワルド様が、黙って消えてしまうわけなどないのに。

「その空の色が、はばたく君にとても似合っていた。輝く天空こそが君の住処なんだね。君は、風にほどけて、そのままどこまでも飛んでいけるように見えた。君の住む世界。あの鮮やかな青の世界」

話し続けるオズワルドのゆったりした語調に、ぼんやり意識をたゆたわせていたグウェンドリンだったが、次の言葉が、不意に引っかかった。

「俺も君と世界を分かち合えたら。君と並んで、空を飛べたら……」

「殿方には無理です」

カキンと打ち返す様に断言してしまってから、はっと我に帰った。今、私は、何を。ひどく、刺々しい言い方をしてしまったような気がする。

「……そうだったね」

オズワルドは変わらず静かに言葉を続けた。右手が、グウェンドリンのうなじを、握りしめるように、優しくなでていた。

「ワルキューレの翼は、男性の筋骨を持ち上げる力はないのだったね」

「オズワルド様……オズワルド様。私、あの……」

そういうつもりではなかったのです、と言いかけて、グウェンドリンは、しかし自分が冷厳たる事実をしか述べていないことに気がついた。

魔王オーダインの、魔術師としての畢生の最高傑作であろう、ワルキューレの翼。魔力を以て大気の流れを操り、馬よりも早く、鷹よりも高く飛行する。軍馬を大量に養う草原を欠くという、地理的不利を背負うラグナネイブルが、騎兵以上の軽快な運動力を備えることが出来たのは、ひとえにこの発明の功績だった。

しかし、残念ながら、その力は、精々が、人ひとりの重さを支えるのが限界だった。術者の技術や魔法力にもよるが、武装した兵士では重すぎた。武器や装甲も考えると、女か子供が精一杯。

この特徴が、ラグナネイブルの王国史上、初めてにして唯一の娘子軍、ワルキューレ部隊結成の理由であった。

そう『殿方には無理』なのだ。実際、本当にそうなのだ。

でも……。

そう、さっきは『そんなつもり』で、彼の言葉を遮ったのではなかった。

「あの、オズワルド様……。すみません。わ、私……」

オズワルドに謝りたかった。でも、何をどう謝るべきか、よく分からなかった。

一方で、私の何が悪いの、とまるで開き直るように猛々しく腹を立てている自分もいる。誰もグウェンドリンを責めたりなどしていないのだから、彼女が開き直るというのも妙な話だが、しかしそんな感じなのだ。

「……どうしたんだい、グウェンドリン」

心乱れて言葉に詰まるグウェンドリンの、耳の上に口づけて、オズワルドが優しく訊いてくれる。

ああ、この人に言いたい。……何を?

自分は何を言いたいのだろう?

「君は戦いている。……俺は今、どうも何かひどいことを言ってしまったようだ」

「いえ、違います!そんなことは!」

叫んだつもりだが、声はかすれた。

オズワルドは、おだやかに彼女の瞳を覗き込んでいた。ついさっきまで、グウェンドリンは、くすくすとまさしく小鳥がさえずるような忍び笑いを洩らしていた。今、嘘のように、怯え、震えている。

どうしよう。自分でも、訳がわからない。オズワルド様が、案じてくださる。赤みを帯びた瞳に、暗い罪悪感を浮かべて、私を心配そうに見つめてくださる。オズワルド様は何も悪くないのに。

素適な青空だった。初秋の空気は澄んで、塔の尖端から、魔法のように世界全体が見渡せた。遠く北はネビュラポリスの星の雲から、遙か南方の海原まで。

その瞬間、とても幸せだったのに。オズワルド様と、この幸せをともにしたいと、他ならぬこの自分自身も、心から確かに望んだのに。

折角の快晴を、爽やかな風を。そして、オズワルドの細やかな心遣いの行き届いたこの服を。自分が台無しにしてしまっている。そう思うと心苦しくて、無理にも笑い、喜びたかった。でも、出来ないのだ。

耐えられなくなって、オズワルドにしがみつく。彼の胸に額を当てると、急に何かが緩んで、目が、熱を持った。

ぽたぽたと、涙が、彼のシャツにしみてしまう。

オズワルドは、変わらず、優しく彼女の背をさすりながら。

やおら、口を開いた。

「すまない、グウェンドリン。白状すると、先刻、俺は、妬いた」

先ほどグウェンドリンがしばし足を止めた尖塔を見上げ、続けた。

「君を魅了して止まぬ、この蒼天に」

否、否と、彼の懐で顔も上げず、グウェンドリンが首を振る。その小さな後頭部に、長い指で柔らかく触れ。

「君を、縛り上げたくなった。籠に閉じ込めたくなった。どこまでも、ついていって、君をずっと見張っていたくなった。……我ながら、浅ましい」

否、と。さらにグウェンドリンはかぶりを振った。

「そんな風に、見張られ、縛られ、閉じ込められたら、さぞかし君は苦しかっただろう。この服も、おぞましい囚人服のように感じたかもしれない」

「いいえ! いいえ!」

遂に、グウェンドリンも顔を上げた。涙もぬぐわず、オズワルドの言葉を否定した。

「違います。オズワルド様はそんな方ではありません。私が愚かなのです」

「そうかな。俺は聖者などではないぜ。生臭い獣欲の塊さ」

笑みを含んだ声でオズワルドは言って、自分の言葉を証すように、突然グウェンドリンの首筋に口づけた。踏みにじるように強引に性急に……という素振りながら、二人で見つけた、グウェンドリンの首筋の地図の、思い出の地点を一つ一つ、舌先と唇で丁寧にたどっていく。

「オズ……オズワルド様、そんな……っ!……」

戸惑うグウェンドリンの吐息が、別の色合いで湿りかける、寸前に首筋から離れたオズワルドは、今度はおどけた様子でグウェンドリンの唇に、ちゅぱっ、と音高く口づけて、言った。

「と、このように俺はケダモノなのだ。可愛らしい小鳥は、気をつけないとぺろりと食べられてしまうぜ?」

グウェンドリンは粘つくものを飲み込んで、掠れた声で小さくいらえた。

「はい……ご存分にお召し上がりください」

望むところです、と付け加えると、ふふっとオズワルドが微笑った。

あ、笑顔。

嬉しくなってグウェンドリンも微笑んでしまう。

自分もまた、笑えている。

単純なものだ、今の口づけで、こんなにもほぐれてしまった。氷を詰め込んだようだった脊柱が、オズワルドの上下する掌の圧力に甘く溶けていきそうだ。

「そう、確かに俺はケダモノなのだが。でも、そればかりでもない」

オズワルドの紅玉の瞳が笑みを潜め、真摯に光った。

「はばたく君は美しい。今日改めて知った。君の瞳は、碧空の色を映しているのだ、と。たとえ、その瞳が、もはや俺を映さぬとしても」

「オズワルド様!」

「その翼が君を千里の外に運ぶとしても。……君の翼の為に、俺は戦おう」

「オズワルド様……ごめ……ありがとう。ありがとうございます」

顎へ添えられたオズワルドの無骨な掌の上に、自分の手を重ね、頬ずりしながら、グウェンドリンは、しかし、かぶりを振った。

「でも、そうではないのです。オズワルド様、別のことではないのです。決して、どちらかだけということではないのです」

うまく言えない。

でも分かってほしかった。

これまで、鎧越しに感じる風を、力任せに切り裂き、従わせてきた。彼らも、従順で忠実で……しかしそれだけだった。

今、空を、風を、音楽のように感じる。

オズワルドがいなければ、その響きに気付かなかったかもしれない。そう思えば、オズワルドへの感謝の念は底知れない。でも、オズワルドへの今の気持ちは、それがすべてではない。

今も頬に感じるこの指先が。先ほど首筋を啄んだ、その唇が。オズワルドの熱と力を伝えてくれる。

求められること。抱きしめられること。オズワルドにとっての、自分が。

ああ、違わないのだ。

風に身をゆだねるのと、違わない。オズワルドが言うような、ケダモノが小鳥を一方的に貪る、そういうことではない。

「そうではないのです」

しかし、グウェンドリンはそうとしか言えず。ひたとオズワルドの目を見つめた。

オズワルドも静かに、グウェンドリンを見つめ返した。

さわさわ、と、眼下に広がる森を逍遥する風の音が、このバルコニーにまで清かに聞こえる。

不意に、するするとオズワルドの右手が、グウェンドリンの腰をつたって下がった。彼女の丸い尻をぐいと掴んで。

そのまま、持ち上げた。

もともと、オズワルドの半分強の目方しかないグウェンドリンだが、今は、さらにワルキューレの翼の浮遊のまじないが効いている。文字通り、重さがないもののように、彼の肩の高さまで、すいと上がった。

あっ、と、一瞬グウェンドリンも驚いたが、彼の手が導くままに大人しく、彼の右肩の上へ移った。無言の彼の右腕の力は、突然だけど優しくて。

━━まさしく、風のよう……

翼をつけたままでは、さすがの彼の肩も狭かったけれど、そこはワルキューレの平衡感覚で、グウェンドリンは危なげなく座った。

「俺も、君にとって、大切な止まり木。そう思ってもらえていると、うぬぼれていいのかな」

オズワルドの声が好きだ、とグウェンドリンは思った。珍しく、照れたような、この声も。

「ええ、良檎は、をすら択ぶのですよ」

自分の太ももの横から見上げてくるオズワルドの髪を、愛おしげにそっと、かき回して。

「オズワルド様?」

「ん?」

「大好きです!」

言ってグウェンドリンは、オズワルドの頭を抱きしめた。

だから、その腕の下で、無言のオズワルドの白皙が、ほのかに赤く頬を染めた貴重な瞬間を、見逃してしまった。

 



 

おしまい。

読んで下さって、有難う御座いました。

 

ニコ動で見つけた初音ミクの名曲「はと」にインスパイアされて書きました。

だから、本当はタイトルは「伝説のほとり」とか「ハトタックル」とかにしたかったんですが、原曲のすばらしさにとても及ばないので自重しました。

 

それにしても、ご無沙汰です。

実は、去年の暮れぐらいから、物理的にインターネットに接続困難な状態が一か月以上ありまして。

そしたら、なんとなく、ネット離れしてしまったというか、回線の問題が解決した後も、アクセス量がぐんと減ってしまいました。無きゃ無いで、別に不自由は無いんですよね。

気が付いたら、ESTさまが、更新休止とかになっておられるし。びっくり。そして残念。大変、面白く拝見しておりました。これまでありがとうございました。機会あれば、また戻ってきてくださいね。

おれも止めればいいんだろうけど、往生際が悪くてなぁ。

別に誰かが迷惑でない限りは、細々書いていこうかな、ということで、リハビリ的にSSです。

いや、コルネリウスのこと書けばいいんだけど、なんかなぁ。コルネリウス嫌いじゃないけど、オズワルド様が出てこないと思うと、気持ちが入らないんだよね。(ヲイ)

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