オーディンスフィア リプレイ日記22 「ワルキューレ」終章━離さないでいて━
えっ、まだ「ワルキューレ」なの?
オーディンスフィアの発売以来7ヵ月近く経過しましたが、最初の一冊目のリプレイをえんえんやっております、にぽぽだいです。
久々のオーディンスフィアばなし。略してオーばな。
古城のバルコニーでのやり取りで、我らのオズワルド様がポエマーの月桂を不動のものにするわけですけれど。
懐かしいなぁ。初めて見てから、半年以上か。オーティンスフィアを代表するシーンと言って良い、よね? だめ? ようつべにも流れて、多くの方が目にされたことと思いますが。
おれもこのシーンが好きで。ようやく、このシーンの話を書く日が来たんだなぁ。
台詞も、すごいんですけど、第一部の〆のシーンですから、スタッフの演出がごっつう入念で。カメラ固定という縛りの中で、キャラの位置関係というか、間の取り方というか、時間的にも空間的にも。
「…グウェンドリン…」
「君の意思の反して傍らに留めることが
どれだけつらいか…」
「解っていても
君を求めずにはいられなかった」
ロングレンジから、胸を押さえ「言葉にならない激情がなおこの胸の内にあるんだよ」と雄弁なジェスチャーで表現しながら。次第に視線を床に落としていく。内省モードのようでいて、しかし、どこまでもグウェンドリンを魅せることを意識した、オズワルドの鮮やかな演出でしょう。いまさら「意思に反して」などいないことは分かり切っている訳ですから。
この期に及んで、追うのではなく、追わせるんだなぁ、と。わざと攻め口を作って相手からつっかけさせ、後の先を取るのが、オズワルド流と見ました。「トカゲ」とののしってワーグナーを挑発する、あのテクニックですな。
グウェンドリンが、まんまと乗せられて、必死に追いすがります。
「オズワルド様…」
「この心の昂りが
魔法の力だとしても構いません…」
「あなたの側にいられるなら
どのようなつらい試練も受けましょう」
首筋まで真っ赤にして、それでも、一歩踏み出して。
顔を上げて。
一世一代。グウェンドリン、空前絶後の一歩でしょう。
自分が欲しいものを、自分自身の為に、欲しい、と言う。誰かの顔色を伺い、ずっと受け身のままでいようとしていたヒロインが、最後に、自我に目覚め、追う方になる。順当な展開です。お約束、と言わば言え。いいんだよ、おれは好きなんだよ。
ただ、オーディンスフィアが、一筋縄でいかないのは、オズワルドの方がかなりの余裕を持って「追わせている」という仕掛けが、見えるところかなぁ、とか。例によって、おれの勝手な想像にすぎませんけど。
例えば、このシーンでも。次のオズワルドのセリフの前、彼が右手をすっとグウェンドリンへ伸ばして、おそらくは抱き寄せようとして。でも彼女はびくりと竦んで、心持ち後ろへ下がってしまう。
それを見て、オズワルドはその手を、自然に自分の胸へ持っていくんです、まるで最初からそうしようとしていたみたいに。オズワルド様、すご腕です。流石は剣豪、というところでしょうか。
焦って接近しようとしない。俯いて固くなってしまった彼女に向けて、またロングレンジから台詞です。
「君は彷徨う俺の前を
不意に照らした輝く星だ」
くぁーっ、きたよ。
あまりと言えば、あまりのセリフ。グウェンドリンも思わず両手で胸を押さえ、肩まで朱に染めて、笑いをこらえるのに必死です(違う)
「君に遭うまで
この胸の内は虚ろだった」
情け容赦なくたたみ掛ける、オズワルド様。グウェンドリンはピヨったように動けません。目から星出たスター。その隙をついて、するすると近寄り、今度こそ有無を言わせず、彼女の肩を抱き寄せるオズワルド。計算通りだ。
はっと目を瞠いて驚くグウェンドリン。かわういのう。
オズワルドの顔を一瞬見つめて、でも、あまりの近さに思わずまた伏せてしまうんだ。
「だが今は違う」
懐に飛び込んで、さらに台詞ラッシュです。甘い言葉のデンプシー・ロールだ。
「君という光に触れる喜びと…」
「命より大事な輝きが
目の前から消えてしまう恐怖を」
距離が寄って、少しずつ囁き声に変わる千葉さんの演技が素敵です。
肩に集中しかけた意識を、台詞で引き戻すオズワルド。ぐいぐい距離を詰める強引な態度と、「でも本当は怖いんだ」ってナイーブな心情を語る台詞のギャップが、この場合はひどく魅力的です。
「消えたりなどしません」
思わず、強く打ち消すグウェンドリン。術中にはまっています。
大切な人が消えてしまうのではないか。
オズワルドとグウェンドリンが、ともに、ずっと苦しみ続けてきたのは、まさにこの点。
「私の内に永遠に輝く星とともに…」
「永遠に輝く」と言ったばかりなのに、グウェンドリンは、まるで今にも消え入りそうに切なげにうつむく。この、儚げな、それでいて、猫が頭こすりつけて甘えたがっているような気配も漂わす、アニメーションの演技力がすごいと思うんですけど。
おこりを逃さず、オズワルドがぴたりのタイミングで腰を抱き寄せ。この期においては、もはや無言です。むしろ、腕の逞しさと胸板の厚さに語らせるべき時。オズワルドは心得ている。
抱き寄せられる、自分もそれを望んでいたはずなのに、また目を瞠いて驚いてしまうグウェンドリンが、初々しい。
「お願い…
離さないでいて…」
ついに、オズワルドの抱擁に身をまかせ、グウェンドリンが恥じらいながら目を閉じる。その足もとから、青い小鳥が羽ばたき、大気に溶けて消える。
ちょーん、と柝が入って、幕。
愛する人が消えてしまうんじゃないか、という懼れ。
それが、この二人のテーマじゃないかしら、と、さっき書きました。或いは、誰かを愛すると、自分も相手も痛い目に遭うんじゃないか、という懼れ、と言い換えてもいい。勿論、言うまでもなく、おれの想像の上だけでの話ですよ。
想像ついでに過言すれば、自分が相手を大事に思う気持ち自体が、相手を壊してしまうのではないか、という恐れではないかしらん、などとほざいたりしてみたり。
二人の間を、オニキス王が仲立ちしているのが、ポイントなんだよっ!と例の如くキバヤシ風味。
愛する者をこそ焼いてしまう、という恐れを持つオニキスは、一方で、手に入れられぬなら、いっそわが手で殺してしまいたい、という恐るべき怒りにもふりまわされている人。
愛するにしても、諦めるにしても、相手を殺すしかない。
この感じというのは、実はこの間ちょこっと書いた、グレンラガン話と根っこでつながるんだけど、自分と他人の話になっていくんじゃないかな、って思っているんですよ。
話、飛ぶ飛ぶ。ついてきていただけてる…? ごめんなさい。
何の話かよ、というと、自分とは違う、自分の思い通りにならない、不可能と、そして、絶望を、どこまで受け止められるのか、っていう話です。わかんねぇよ。
愛する相手が、何もかも自分の思い通りになったとしたら、相手を文字通り自分の手足としてしまったら。相手が、独立した別の人間としての個性を失ってしまうとしたら。
自分が、一人ぼっちでいるのと一緒じゃないですか。
そういう風に手に入れようとしたら、相手は死んだも同然。
だが、しかし、相手に何も求めずにおられようか。相手が、自分のことなど理解せず、意識さえもせず、勝手に、自分と無関係に飛び回るのを、ただ見ていられようか。捕まえて、しばりあげてでも、この自分の存在に気付かせたい。その瞳で、この私を見て欲しい。私の気持ちを聞いてほしい。
自分の孤独を、目の当たりにして。ただ、手を拱いて、耐えよ、と?
納得できぬ…
私のこの想いの行方はどうしたらいい。
この身を焦がす魔物を、鎖につなぐなど到底出来ぬ!!
相手を消すか、諦めるかの二択。
オニキスは、自分で手にいれられないのなら、いっそこの手で、と。
グウェンドリンはそんなオニキスを「あなたも祖国の男たちと同じ」と否定し。オズワルドは「お前の言葉はそのままおれの言い分だ」と共感を示す。
おれ自身はその辺、グウェンドリンとシンクロ。キモいんだよ、炎の王。けど、ぶっちゃけ、おれがオニキスをキモく感じるのは、おれ自身の芬々とキモい部分を、抉り出して突き付けられているような、恥ずかしさを感じてしまうからな訳で。
うむ、漢らしく認めよう、ガキはおれだよ、乳児並だよ。でも、おれはずうずうしいので、おれだけが赤んぼ臭いわけじゃない筈だぜと、往生際悪く言ってみたい。人間みんな、そういうところ、少しはあるべ? ねぇが? いきなり訛ってみる。
グウェンドリンだって、そうでしょ。「ワルキューレ」の前半、さんざん自分自身をモノ扱い。祖国の男たちと同じ、ってそりゃ自分のことじゃないよ。
たださ、そのこと自体はそんなに悪いことじゃないんじゃないかなぁ、とか。自分のこととなったら、どこまでも自分に甘いですよ、おれは。いーじゃん、自分や誰かをモノ扱いしたって。ちょっと思うくらいならさぁ。ダメ?(うるんだ瞳で上目づかいな感じで)
ここで、「ダメだ」と、グウェンドリンは、本気で思うんだろうナ。そんな想像をしています。
強く「ダメ」ってことにしてないと、相手を本当に征服して殺してしまうかもしれない、と、心の底から怖れてしまう。あまりにも「ダメ」と強く強く禁じるから、自分の心の底にそんな気持ちがあることを、認めることもできない。違う、そう思っているのは自分じゃない、父だ、オニキスだ、祖国の男たちだ。私じゃない、私はそんなこと、思ったこともない。
自分は関係ない、安心。でも、ずっとそんなわけにはいかない。どっかで、決断を迫られる。グリゼルダから文字通りバトンタッチを受ける時。異母姉が、同じように父のエゴによって死んで行くのを見逃す時。自分のせいではないか。自分は共犯なのではないか、と小鳥が問いかける。
そう、小鳥。
グウェンドリンは確かに、モノじゃない。でも、100%、モノじゃないかと言ったら、ちょっと自信がない。っていうか、それは怖い。モノとして、道具として、使ってくれる人に責任を預けて、呑気に行きたい気持ちも、実は無きにしも非ず。っつうか、結構強いですよ?みたいな?
その矛盾と混乱と逡巡の隙間から、小鳥は生まれ出てきた。のではないかというのが例によっておれの想像にすぎないわけですけど。
このあたりは以前からしつこく繰り返し書いてることなんだけど、おれはしつこいのでもう一回書きます。
グウェンドリンは道具みたいにただ利用されるだけの生き方にうんざりしている、一方で同時に、それって楽チンだよな、自分の責任じゃないんだもん、みたいな気楽さもあって。
だから、いざ「君は物なんかじゃない」と正面切って言われると、「えーっ」って「もうちょっと子供でいたい」みたいな。でも「物のままでいたいです」などとストレートに言うのは、恥ずかしいっちゅうか、なんだか悪いことみたいだし。などと迷ううちに「私じゃないのよ、祖国の男たちが言うのよ」って言い訳を始めたんじゃないのかな、とか。おれの想像ですけど。
でも、全部男たちのせいにして、自分でも本気でそう信じてしまって、というほどまでにはグウェンドリンは、自分をだませない。どこかで、彼女の誠実さが、小鳥の姿でツッコミいれてくる。「おいおい、ほんとかよ」って。指し示す、自分の中の、見たくなかった、醜い自分を。わがままで、ずるくて、子供っぽくて。なかったことにしたかった、嫌な自分。でも、それもやはり、あなた自身なのではなくて、と、その小鳥さんが問いかけてくるわけですよ。
なんてことを想像しながら見ていると、このシーンで小鳥が、影を薄くして溶けるように消えてしまう演出の意味深さはすごいなぁ、と。
「離さないでいて」とオズワルドにしがみ付くグウェンドリンは、確かに変わった、素直になった。ツンを交えずデレられるようになった点は、強かになったと言えるのだろう。
けど、縋る相手を父親から夫に変えただけ、とは言えないか。
小鳥の消え方の、あまりにもさりげない感じが、おれにはむしろ、グウェンドリンが小鳥との対決から退却して、以前の慣れた殻の中へ逃げ込んだかのような感じがしたりしてなぁ。
だから、終焉のv.s.レヴァンタン戦があるわけだよな、とか。おれの中では納得しています。
消えた筈の小鳥と二人っきり。どうしようもない不可能に囲繞されて。
「ああ、翼をやられてしまった…もう飛べない…もう…」
破滅した世界の暗い夜を、無力に落ちていく。
ここでの小鳥との対話が、おれは、すごい好きなんです。
素直に見れば、小鳥の正体はグリゼルダの霊魂だった、ってことでしょう。
ええ、それは分るつもり。なんだけど。
おれは想像するんです。
暗黒の夜空。レヴァンタンによって、世界はすでに破壊された。故郷も、ミリスもブロムも、オズワルドと共に暮らしたあの古城も。オズワルド様ご自身さえ、あるいは。それ以上に届かない、自分の翼。矢のように大地を射抜く、この垂直の軌跡、もはや自分は、この線を一寸だってずれることはない。
何もかも、終わった。
グウェンドリンにとって、その圧倒的な不可能と絶望は、むしろ、優しかったのではないか。
ジュリアン・ソレルが、獄中、翌日に死刑執行を控えて。短くも激しい一生の中で初めて、その怒りと鬱屈から解き放たれる。そういう物語を、連想したりする。
そのとき、焦りと不安に追いまくられ、きょときょとと落ち着かなかった心も、ようやく自身を見出すのではないだろうか。
振り返って。その一撃もなかなか悪くなかった、と。悪くないどころか、世界の終焉と同義の巨竜を落したのだ。雷神の一撃と言っても過言ではない。生まれて初めて、自分の仕業を、褒める気持ちになる。良くぞやった、十分達した。
未曽有の武勇。我らワルキューレにとって、最高の栄誉。
ワルキューレ、という身分が、初めて死と切り離されて語られる。死ぬこと以外に誇りを保つ道はない、と、縛り上げ、閉じ込めるような側面でなく。実力を以て自分自身を示す、自己実現の手段としての側面が。
ふふっ、お前は私のくせに、まるで姉様の言いようね。
そうだ。姉様は、そうだった。厳しかったけど、私の力を認め、愛し、育んでくれた。成長を喜び、褒めてくださった。
でも、そんな姉様の優しさを忘れていた。認めるのも怖かったのかも。まるで、引き換えに何かを奪われるようにも、感じた。命や、未来を、代償に求められそうな。姉様のコピーになって、私も死ななければならなかったかのような。
しかし、こうして、目前に死が決した、今なら、分かる。姉様は、私の死を望んでなど、おられなかった。だって、こうしてまさに死にゆく私が、誰の死も望んでいないのだもの。ただ、自分の仕業を振り返り、静かな満足を感じているだけだ。姉様、そうだったんですね。私の腕の中で静かに息を引き取られた姉様。あのときの、あなたは。
いま、私の中に居る。
ここは、そういうシーンだと、おれは想像しているんです。
ただ風浪にもてあそばれる羽毛のような自分ではなく。姉から、しっかりと受け継いだ何かがあって、その何かは、グウェンドリン自身を決して不当に否定などしていない、そんな自分のイメージ。小鳥の中に、そんな、これまで思いもつかなかった、新しい自分自身を発見する。
それが自分自身だと、本当に納得する、だから、小鳥は舞台から降りる。去るわけではない、消えるのでもない、だってグウェンドリン自身なんだもの。ただ表舞台を降りて、背景に溶け込む。
姉様は死んだ。もう、いない。だけど、姉様が私を愛していたこと、そして、私も姉様を愛していたこと。これは、決して、揺るがない。ありがとう、姉様、大好き。そして、さようなら。
これは、そんな物語だったのではないのかな、っておれは想像しているんですよ。
一応、この辺でグウェンドリンの話は切り上げます。そろそろコルネリウス編書きだしたいです。
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