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2007年11月25日 (日)

オーディンスフィア 二次創作小説 その6 グウェンドリン×オズワルド 「戦場」

久しぶりのSSです。

お目汚し失礼いたします。

舞台は「ワルキューレ」序章、グウェンドリン、吹き荒れる嵐の戦場にてオズワルドに挑むの下りです。

では。

 



 

捲き上がる砂塵を劃する紅い円弧。

美しい、と。思ういとまが、あっただろうか。戦士は兜ごと頭蓋を割られて崩れ落ちた。

戦場の狂騒が一瞬にして凍りつく。

地に伏す戦士と入れ替わりに、ゆらりと、その影が立ちあがったかのように、戦士の巨体に隠されていた細身の長身が顕われた。

黒い星が、銀の尾を曳くように。剣士は長い前髪を風になぶらせていた。

━━あれは……

━━死だ……死神だ……

━━おぞましい黒の鎧……

━━瞳と剣尖のまがまがしい紅……

━━あれこそが黒死の魔剣士。

『オズワルド』

勇猛を以て鳴るラグナネイブルの将兵の、息をのんで脳裏に呟く声なき声が、戦場に谺するかに思われた。

「ぐはははははははっ!」

突如、爆発するような荒々しい笑い声が沈黙を破った。

「面白い、音に聞く死神オズワルド、このような小僧だとはな。その細頸打ち落として、我が手柄としてくれん」

ずむ、と地を踏み割らんばかりの一歩を踏み出し、柱のようなハルバードを片手で振りながら、ひときわ巨きなバーサーカーがオズワルドに挑戦を宣した。

おお、と取り囲む将兵がどよめく。

干戈のことに終始するラグナネイブルの戦士たちは、決して愚かではない。オズワルドの繊弱な白皙に、実力を見誤りはしない。その膂力、速度、そして魔剣、侮りがたい……いや、群れなしてかかっても、十中に一回、捷ちを得ることが叶うかどうか。

居合わせた兵たちは、みな知ったのだ。今、バーサーカーが、己が死地を選んだのだ、と。

「遠からん者は音に聞け。近くば寄って……」

死が凝って形を成したような、目前の黒い剣士を前に、バーサーカーの朗として張り上げた声は、微塵の躊躇いもなかった。生涯最後の名乗り。戦士として生まれ、戦いの中に今、死ぬ。異邦の風よ、祖国の同胞よ、そして、ヴァルハラの父よ。わが名乗りを、宣戦を、鎮魂の祈りを聞き給え。

しかし、その声はぷつりと断ち切られた。

病を運ぶという不吉な風のように、地を這って音もなく接近したオズワルドの魔剣が、大音声のために開かれた口蓋を、さくり。貫いたのだ。

己が名どころか、父の名と勲さえ、謳うことも間に合わず。バーサーカーの巨体は、吊り下げた糸の切れた人形のように、大地を叩いた。

傍らに立つ青年が、呆然と倒れたバーサーカーを見つめていた。その男の息子だろうか、若いのに熊の皮衣を纏う、名誉のバーサーカー戦士と知れた。逞しいが、どこかにまだ甘さの残る面立ちは、倒れた巨をはっきり瞳に映しながらも、まだ何が起きたか、理解していないのだろう。先刻まで男の名乗りを聞いていた時のまま、子供のような憧れと誇りでいっぱいの表情だった。

男の口腔を貫いたばかりの魔石の剣は翻り、その若者の喉元を深くえぐった。

赤く、鮮血が天に向けて迸った。青年の体が傾いて、その出血の軌跡が揺らぐを見越していたかのように、オズワルドはひらりと身をかわして返り血を嫌った。まるで道端の水たまりを避けるように。

一瞬遅れて。

戦場が、わんと鳴った。

戦士たちは激昂していた。大地踏みならす音と、呪詛と雑言が大気を埋める。乱戦の中なら知らず、今まさに生命と名誉をかけての挑戦を所望する戦士に対し、名乗りの隙をついて倒すとは。オズワルドが、まだエルフどものような弱兵ならば、不意打ちも許せる。

しかし。

しかし、しかし、しかし。

許せぬ。目の前が真っ赤に染まるような怒気に衝き動かされ、恐怖も、勝敗への冷静な判断も失って、戦士たちは一斉にオズワルドへ突っかけた。

彼らが前進の為に一歩踏む、より疾く、オズワルドはすでにその一角へ駆け寄っていた。オズワルドが至近に迫るのを見て、戦士たちはますます怒りに血を沸かせて、手に、手に、剣を、戦斧を、振り上げ。

オズワルドは、先頭の三人の得物は、振り下ろせば当たる間合い、と見切ると、コツ、コツ、コツと、それぞれの武器に魔石を当てる。すべて鍔元の上あたりで、確実にへし折った。

中央の、剣を折られた戦士がいち早く、自分の武器の異変に気づいてか、表情を驚愕のそれに変えていく。この中ではこいつが一番出来るようだ。強敵から倒すという原則に基づいて、中央から倒すか。

魔剣の剣先は右側に流れていた。引き戻す流れで右端の男から斬る方が、早いだろうか。

そんなことを考えながら、視野の外の気配を確認する。周囲から一斉に駆け寄る戦士たちの獣臭、とみえて、半歩程、左側後方の一群が早くオズワルドに届くだろう。

よし。右側からだ。オズワルドは決めた。

そして、首をなくした右端の戦士の体が、膝をつくまでに、三人死んだ。

その全身が大地を打つ迄に、更に四人。

高く跳ね飛ばされたその首が、落ちて砂埃にまみれるまでには、なお二人死ぬほどの間があった。

 

魔槍が重い。

戦は負けだ。先軍の将グリゼルダが討ち取られ、中軍の将ブリガンもいずくにいるか。総崩れとまでいかぬまでも、戦線はもはやずたずただ。

勝ちに驕るエルフどもは、嬲るように敗走の兵を掃討していく。

退き時だ。グウェンドリンの将としての冷静な部分は既に悟っている。これ以上、戦場に留まる意味はない。徒らに被害が拡大するばかりだ。

しかし、魔槍が重い。重いのだ。

「まもなくお側に参ります」と。

私の涙を受け止めて、濡れた頬で。姉上は、微笑っていた。もはや光の宿らぬ瞳を、それでも私に向けて。

その姉上に約した。

今を逃して、おめおめと生き延びて、何条以てヴァルハラの姉上に顔向けできよう。

難敵はいないか。雄敵はいずこ。

初めて手にした、青い魔槍。憧れと畏怖をこめて、常に、先陣に青くたなびく軌跡を見上げてきた。なぜ、今、この手にある。何が起こっているのか、思い出せない。まだ姉将の討死を知らぬ兵士たちが「グリゼルダ様!」と呼び仰ぐ声が聞こえる。振り返ることもせず敵陣へ突き進む。ああ、そうだ、己れがグリゼルダか。それとも。グウェンドリンの惑乱が轟々と血を掻きたてて、戦場の喧騒をも聾していく。

グウェンドリンの突撃の前にエルフは羽虫だ。風をくらって、吹き飛ばされるような頼りなさ。不足。せめて、聖騎士はいないか。姉を斃したのも聖騎士の突撃だと聞いた。何人かの聖騎士をすでに魔槍にかけたが、乱戦の中、姉の仇かどうかは分からない。

そんなことはもはやどうでもいい。戦場でのこと、仇のどうの、問題ではない。良敵はいずこ。暗雲垂れ込める戦場の空。今日、ラグナネイブルの双翼が共に落ちる日。わが王国の滅びの始まりを告げるこの日、そのときを作るに相応しい死の雄鶏は、いないか。

いないのだ。

すでに帰趨の決した戦場で、帰って後の褒賞の皮算用を数える敵兵どもが、敢えて、決死のグウェンドリンの前に立つはずがない。

逃げ遅れた間抜けが槍先にかかるのみ。時が過ぎていくばかり。終には、機を逸するか。敗軍の中に生き恥をさらすのか。

きりきりと奥歯を噛みならしたグウェンドリンの耳に、友軍のどよめきが届いた。振り返れば、敗走の、それでも隊列を整えて精強の名に恥じぬ撤退戦を戦っていた一軍が、一騎の武者にいま、崩されかけている。

そうだった、戦意滾る強敵であれば、むしろ自軍の中核に切り込んでくる筈だ。

いた。

遠目には黒く霞む影の旋風としか見えないが、蘆のように薙ぎ倒される友軍の戦士たちを見れば、その力に疑いない。

見つけたぞ、私の死。

グウェンドリンは高く跳んだ。

 

一人一人、丁寧に殺していく。

今回は勝ち戦だから、自分の仕事が目立たないのは残念だ。メルヴィンの為には、負け戦の中で、オズワルドだけが活躍していた、という形が一番良い。かといって、優勢の中で大した成績が上がらなかったとしたら、それも名折れである。一方、敵の力を余り殺いでしまっても、今後、メルヴィンがやりづらい。ラグナネイブルには無視できない外患として、今後もメルヴィンの道具として役立ってもらわなければならない。

ややこしいものだ、と、ため息を漏らす。ふと考えに沈んで、手先が勝手につい殺しすぎてしまう。敵手どもが鼻白んで、やや距離が開く。

いかん。

近くで砂に黒く血を吸わせていた戦士の屍体、その厳かな顔を踏みにじる。先ほど、若い戦士を庇って倒れた男だ。おそらく、人望のある男に違いない、という計算だ。

果たして、ざわっと再び、敵兵どもがいきり立つ。

怒っている敵は御しやすい。再び突っ込んでくる兵士たちを軽く叩き伏せる。勝つためには敵を恐怖せしめよ。倒すためには、敵を憤怒せしめよ。メルヴィンの教えは実用的だ。

悲鳴のような喊声を上げながら、若い斧戦士が、全力で斧を振りおろす。先ほど庇われた男だ。ラグナネイブルが疲弊し過ぎないように、若い戦士には手心を加えてきたが、二度まで見逃すこともないだろう。胸板を貫く。彼の恩人の血を吸った同じ砂の上に倒れる。

この二人は、親子か。師弟か。

俺とメルヴィンは……。

メルヴィンが倒されたら。俺は、叶わぬ敵にも突進するだろう。

……メルヴィンの方は……俺をかばってくれるだろうか。

馬鹿げたことを。俺が敵わぬ相手から、メルヴィンが俺を庇えるものではない。

次の敵は柄頭で殴り倒した。その次の敵も、拳で。特に理由はない。

足元に積み重なる屍肉。

殺しているのは、人間だ。

分かっている。自分が、取り返しのつかないことをしていることは。

流れ込んでくる、敵の憎悪。悲憤。死。

楽器の弦を、ぷちぷちと切っていく感触。

もう、二度と歌を奏でない。二度と。

沈黙。

沈黙。

拳に力が入る。なぐられた男の鼻柱が顔にめり込んで、悲鳴が止まる。死んだかな。

死んだかもな。

……俺が、知ったことか。

剣尖が唸って、白い蒸気の線を描いた。さらに回転を上げる刃の嵐を、避けられる者などいない。跳ねる。誰一人、オズワルドのスピードに反応できない。

恐怖に悲鳴を上げようとする者も。仲間に警告を発しようとする者も。決死の覚悟でオズワルドに剣を向けようとする者も。声一つあげる時間も与えない。

死の声は沈黙。

その色は黒。

 

「私が相手だ!」

しわぶき一つ落ちぬ、戦場にあるまじき静寂の中。ただ、風が鳴っていた。

凛と涼しい声が割って、響いた。

ふと周りを見回せば、死体の山だ。気づかぬうちに、黒死の影を纏った鬼人の力を奮ってしまったのだろう。人に対しては勇猛なラグナネイブルの戦士達だが、ああなったオズワルドは、単なる怪物だ。全員脇目も振らずに逃げてしまったと見える。うん、まあ、頃合いだ。今日の働きは、これまでか。

さて、と一息吐いて振り返ると、ワルキューレがいた。

中軍に、ワルキューレが、単騎で?

いや、見れば、オズワルドに突き付けているのは、穂先が青い魔石の槍だ。

ああ。音に聞くオーダインの魔女、長姉グリゼルダはオズワルドのそれと同じ魔石の武器を持つそうだ。なるほど。先刻までのオズワルドの様子を見たら、竜鱗をも毀つ魔槍を担ぎ出してきたくもなろう。

などと思う間もなく、ワルキューレが一息に間合いを詰めてきた。

疾い。

剣先を合わせて槍の軌道を逸らすのが精一杯。背筋がやや冷える。竜と戦って以来、初めてのことだ。まさか人間相手にこんな思いを味わうとは。

メルヴィンからは、将を討てとは言われていない。メルヴィンの立場ではラグナネイブルが負けすぎても困るのだ。しかし、討つな、と禁じられている訳でもない。このワルキューレ、強すぎる。遭ってしまった以上、お互い、ただではすまない。

むしろ、今っ!

長柄の得物は一撃放った後にこそ隙がある。突進の勢いそのままに天へ翔け上がろうとするワルキューレに、オズワルドも跳躍して追いすがった。

背後から、確実に絶命させるつもりで放った一撃。

それを槍の柄で受け防いだのだから、この女戦士、只者ではない。

しかし、一撃の重さが違う。

空は戦乙女のもの。しかし、だからこそ、ワルキューレは空中で攻撃を受けることに慣れていない。打撃の威力を受け止めきれず、錐を揉みこむように回転して、娘は大地に叩きつけられた。

オズワルドが着地したところから、娘の墜落した地点が視界に入った。対して娘はうつ伏せて、こちらにまだ気づいていないようだ。幸い。着地で溜めた撥条を生かして数歩の距離を一足に縮める。まずはあの魔槍を何とかしなくては。乙女の利き腕を蹴り飛ばし、得物を弾いた。

少女の細い右肩を掴み、力任せに仰向けにひっくり返し、その顕わになった喉元に、魔剣の切っ先を叩きこむ。……叩き込もうとして、ワルキューレと目があった。

なぜ、その手を止めたのだろうか。

目が大きい……いや、顔が小さいのだ。掌一つで、覆い隠せてしまうだろう。

瞳が青かった。湖水のように凪いだ瞳。まっすぐオズワルドを見つめ返しながら、オズワルドを何物とも見ていなかった。

「……早く殺すがいい。いつまで私を組み敷くつもりだ」

挑戦の時と同じ。凛呼と響くその声は、しかし、空っぽだった。

オズワルドは、自分が驚いていることに気が付いた。

凶器を振り上げて圧し掛かる敵兵を見上げて、この瞳。この娘は、一体。

オズワルドは「決死の覚悟」というものを見慣れている。確かに死を恐れない戦士は居るものだ。

しかし、この娘は。違う。

これでは……これでは、まるで、俺ではないか。

 

「もう、引き返せ」

気がついた時には、娘から離れ、背を向けていた。危険とは思ったが、この瞬間、どうでも良くなっていた。

「この戦い、勝敗は決した。これ以上は無駄死にになる……」

誰かに言い訳する様に言葉を続けている自分が、滑稽に思える。返事も待たず、自陣に向かって走り出した。

分かってしまった。この娘は、命をかけるほど大事なものがあって戦っているのではない。この世に、生きる場所がないから、戦っているのだ。

走り続けながら、オズワルドは胴の震えを禁じられなかった。

何故、そんな娘を、自分と同じだ等と、思ったのだろう。

考えたくない。

不意に鮮やかな、青色の記憶が蘇る。あれはメルヴィンの命でネビュラポリスの王宮に潜入した時だ。

小さな女の子がいた。

広い王宮で一人。一人ぽっちで。古風な格調の青いドレスをまとって。

そして、父王から叱られていた。

石造りの、壮麗だが暗い王宮の中で、たった一人頼るべき血縁、振り仰ぐべき父親が。目もくれずに罵っていた。

それでも、彼女は、むしろ侍女のプーカを思いやって、喜んで見せていた。『お母様のドレスが着られて嬉しいわ』透明な声まで思い出す。

そうだ。あの伏せた、深い湖水の青い瞳。あの娘だ。オズワルドの中で漸くつながる。豪壮な王城の中で、たった一人、生きる場所がない、王女。さきほどの、強で空っぽの、あのワルキューレ。

名は、確か。

グウェンドリン。

ああ、そうだ、何故、忘れていたのだろう。

……あの、彼女の髪飾りから抜け落ちた、青い羽根を。俺は、なぜか拾って帰ったのに。どこへやってしまったのか、覚えていない。

探したら、見つかるだろうか。

 



 

おしまい。

読んで下さって、有難う御座いました。

 

ヴァルハラって、オーダインが地上の一国の王にすぎないオーディンスフィアの世界には、ないんだろうな、と思うんだけど。つい使いたくなりますよね。戦士の死の概念、っていう感じのイメージで。

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