オーディンスフィア 二次創作小説 その5 グウェンドリン×オズワルド 「候鳥」
おかげさまで、先日、当ブログも10000hitいただきました。
お礼が遅くなりまして、申し訳ありません。拙作に目をお通しくださることを痛く光栄に存じます。
そのうえ、拍手迄くださる方もおいでです。ご厚意身に余ります。本当にありがとうございます。
今後とも、よろしくお願いします。
10000hit記念というには遅すぎますが、5本目のSSです。
お目汚し失礼いたします。
舞台は辺境の古城、「ワルキューレ」終章から数日後、「終焉」の前です。
拙作「タイタニアン ナップルパイ」の翌日、位のつもりです。
寝台の上で胡坐をかくオズワルドの膝の間に座ると、ちょうど、彼の鎖骨の高さが、枕にちょうどいい。こつんと、額を、彼の右の鎖骨に、少し力を込めて打ちつけて見る。
彼の胸郭が反響する。額に返ってくる振動に耳を澄ませ。そのまま、頬をすりつけるようにして、頭の落ち着く位置を探す。
ぐりぐり。
頭を彼の鎖骨に押しつけてみたり。ちょっとは痛がらないか、と思うのだけど、彼は特に気も止めないようで、右腕をそっと、彼女の背筋に添えてくれる。
彼の腿に座り、右腕の背もたれ、胸の肘掛。グウェンドリンのお気に入りのソファだ。
━━肘掛というには。
雄大に過ぎる。左頬をすりつける、その厚い胸板に、そっと指を触れて思う。
彼は昨日、ベッドに入った時のままの全裸だった。シーツから起き上がったむき出しの上半身が、少しずつ白みつつある朝の空から、うす明るく照らし出されはじめていた。
━━こんな風に朝を迎えるのは初めて。
昨夜は、床に入るのが早かった。そのせいか、二人揃って、夜明けの前に目を覚ました。いつもなら、朝は、グウェンドリンが十分に目を覚ましきらないうちに、オズワルドは身支度を整えて、出かけてしまうのだが。
今、彼は動こうとしない。
グウェンドリンもまた、動かなかった。身体だけの話ではなく。いつも囀り、煩わしい、彼女の軽佻な心が、今この時、なぜか澄んだ水面のようだった。ひとかけらの心配も、憂悶も、波を立ててはいない。
おもむろに輪郭を顕わにしつつある彼の胸筋を見つめながら、グウェンドリンはおだやかだった。ただ、無心にオズワルドを見ていた。
ラグナネイブルは戦士の国だ。男の鍛え上げた胸板は珍しくもない。しかし、ここまで近づいてまじまじ見たことはない。そう言えば、手触りも、匂いも、味わいさえも、隈なく知っているはずの夫の体だが、光の下で見たことはほとんどなかった。自然、子供のような好奇心で、オズワルドの身体に視線が引きつけられる。
やはり筋肉の絶対量自体、並ではない。グウェンドリンには決して纏えない、分厚いヴォリュームにため息が漏れる。この胸を見よ。グウェンドリンのそれがなだらかな丘陵だとしたら、彼のは山脈だった。
それでも、筋肉の量だけなら、オズワルドを凌ぐものはいくらもいよう。しかし、戦士の強さは、腕力ではない。ワルキューレの価値観で言えば、均整と軽捷が最大の武器であり……オズワルドのそれは比類ないものと思えた。
━━贔屓の引き倒しというものだろうか。
そうかもしれない。グウェンドリンは自問に即答した。自分は今、安らいだ気持ちではあったが、平穏さと冷静さは違うことくらい、理解しているつもりである。自分は全くもって冷静ではない。
━━狂っているのだ。
恋に。
それにしても、色が白い男だ。
右手を彼の胸に這わせる。滑らかだ。オズワルドは体毛が薄い。最初は、髭のように、剃っているのかと思ったくらいだ。
そう、彼は髭を剃る悪習をなかなか改めない。……ばかばかしい。自分の中に不満の気配を感じて、あわててグウェンドリンは打ち消した。
もとより、男性の値打ちは見栄えにはない。オズワルド、死の国の黒い剣士といえば、その力は天下に隠れもない。誰も嗤う者などない。第一、他の者がどう思おうと、それがなんだというのか。オズワルド様がどんな方か、自分が一番知っている。
しかし、その風采は、まるで……。細面で、目が大きくて、色白で。まるで子供か……女のようだ。その上、この人は、髭も剃ってしまうのだ。いやいや、見てくれなど、些細なことだ。本当にどうでもいいことだ。
……なんだけど。タイタニア以南では、男性は、髭を剃るのがたしなみらしい。妖精はもともと髭がない種族だし。リングフォールドに育った彼が、そういう身だしなみを身につけたのは良く分かる。でも。
なんだかもやもやしてきた。こんなどうでもいいことを、なんだか気にしている自分が、いやだ。
八つ当たり気味に、指を伸ばして、彼の乳首をつついてみる。
くすぐったかったのか、びくりと彼の胸の筋肉が一瞬ひきつって波打つが、器用にも、つつかれた左側の方だけだ。グウェンドリンが頭を預ける右の胸は、柔らかく彼女を受け止め続けている。なんだかおかしい。面白くなって、もう一度、さらに一度と繰り返してつついてしまう。
グウェンドリンが調子づいてくすぐるのを、うるさげに筋肉で応えながら、しかし、オズワルドは何も言わず、させるままにしている。親猫の尾にじゃれつく子猫の心境で、グウェンドリンの細い指先は、彼の薄い皮下脂肪の上を跳ねまわった。
「俺の輝く希望」
不意にオズワルドが囁いた。
「可愛い導きの星よ」
大真面目な声。
こういう人なのだ、と分かってはいるのだが、呼びかけに暗喩を用いる彼の癖には、いまだに慣れない。その一方で、グウェンドリンの指先に反応して、胸筋がぴくりぴくりと踊り続けているのである。
笑いの衝動が唐突にこみ上げる。それを、何とか飲み下して、グウェンドリンは彼の瞳を見上げた。
死の国の女王さえ魅了した、物憂う瞳がグウェンドリンを見下ろしていた。青白い懊悩の影を漂わせ、青年は言った。
「くすぐったいよ」
その言葉を裏付けるように、胸筋がびくりとはねた。
だめ。
ぎりと音が立つほど奥歯を食いしばって、噛み殺そうとしたのも一瞬で。
ぐぶふっ。
グウェンドリンは、彼の顔に向かって思い切り吹き出した。
霧になって顔に叩きつけられるグウェンドリンの唾液に、彼が目をしばたたかせる様子が見えて、申し訳ないと同時に、たまらなくおかしくて、どうしよう。笑いが止まらない。
涙がにじんで、やがて彼のそんな顔も見えなくなってしまったけど、呼吸が苦しくなるほど、笑いの発作がままならない。
腹が捩れるというのはこういうことか。身をくの字に折って、なお笑い続ける。転げ回りそうな自分の体を、オズワルドが黙って優しく抱きとめてくれている。
自分がこれほど無防備に笑っていることに、静かな驚きがある。思えば、自分はいつも、何かに追われていたようだった。追いつかれたら、何か恐ろしい深淵に引きずり込まれてしまう、そんな恐怖。一体、あの、いつも自分を寸前まで追い詰めていた、あれはなんだったのだろう。
ほんの一瞬、そのころの、背筋の凍りそうな恐怖の名残りが、かすかに浮かび上がった感じがした。
抱えてくれるオズワルドの腕に、心持ち力がこもった。笑い転げるグウェンドリンの前髪を唇でそっと分けて、オズワルドがそっと額にキスした。
━━どうしてこの人は。
グウェンドリンは両手で顔を覆った。
額に触れた彼の唇の感触。その周りが少しざらついていた。オズワルドは、今朝、まだ髭をあたっていない。無精髭だ。今のグウェンドリンには、そんなことまで可笑しくて堪らない。
オズワルド様の、無精髭!!
笑いすぎて涙が止まらない。
キスは浅かった。ざらつく無精髭で彼女の肌を傷めまいとしているのだ。彼にかかると、自分がどんな深窓の姫君かと錯覚する時がある。それが少し物足りないような感じもする。でも、壊れ物扱いされるのが、くすぐったくて、楽しい感じもする。体の奥の方から、わくわくと。
なんとか息を整えて、目を拭って、グウェンドリンは彼の顔を見上げた。少し困ったような微笑を浮かべて、彼女の顔を覗き込んでいた眸と、視線があった。
明るさを増した朝の光が、ほぼ真横から照らして、彼の繊細な鼻梁の影を頬へ伸べていた。長い銀の前髪が、バルコニーから優しく吹き込む風にそよいでいる。この角度で光が当たると、彼の瞳は、鮮やかに紅い。
━━……。
数秒、呼吸も忘れるようにしてその目に吸い込まれていたグウェンドリンだったが、ふと、同じ明るさが自分の姿も照らし出していると気づいてしまった。
昨夜、体の芯から快く疲れて、蟠りなく眠りこんでしまった。今もそのまま。何の身づくろいもしていない。かはたれの仄暗さをいいことに、彼の膝に乗って甘えてしまったけど、いつもの朝なら彼女を隠してくれるシーツさえなく。一糸纏わぬしどけない裸身を、オズワルド様も、同じように、しげしげとご覧になっていらしたのではないか。
なんだか急に恥ずかしくなってくる。
いえ、ふ、ふ、夫婦なのですから。何を恥ずかしく思うことがある。オズワルド様がお望みなら、私はいくらでも。オズワルド様がお望み? お、お望み? お望みなのでしょうか。わたしの、私の……私の肌を……この白日の下で……
が。いや。くわ。いくつかの思念がグウェンドリンの小さな頭蓋の中でぶつかりあって、火花が目から閃いて出そうだ。さっきのまでの静穏が嘘のように乱れた。いや、えーと、ちょっと。ちょっとタイム。オズワルド様のお望みであれば勿論吝かではない。でも、待って、心の準備が、まだ。
ほほはおろか、耳から、首筋から、血が上がって火照るのを感じた。だめだ。彼の顔をまともに見られない。
おろおろと揺れる視界の中に、床に脱ぎ捨てられた彼のシャツが映った。いつも、気がつかないうちにミリスが片づけてしまうのだけど、流石にこの時間帯に夫婦の寝室に立ち入ってきたりはしないらしい。
そのシャツがなんだかとても気に入った。落ちている場所がオズワルドの背中側で、彼から死角になるのが特に良い。ウェンドリンは弾かれたように立ち上がって、そのシャツの落ちているところまで、ほとんど小走りになった。
「……グウェンドリン?」
さっきまで、全身を委ねて、身も世もなく笑い崩れていた妻が、急に押し黙って真っ赤になったかと思ったら、突然、鳥が飛び立つように腕の間をすり抜けて視界から消えた。
こういう人なのだ、と分かってはいるのだが、感情の起伏と同じ速度で展開する電光の行動に、オズワルドはいまだに追い付けない。
やや遅れて振り向くと、グウェンドリンは、こちらに背を向け、何か羽織っている。白い……あれは、俺のシャツか。袖を通し、ボタンも止めて、こちらを振り返る。一瞬、目と目があったと思ったが、彼女はもじもじと視線をそらして、あまり意味のないことを言った。
「……袖が余りますね」
そうだね、と肯き返すと、グウェンドリンはますます赤くなって、うなだれた。何を照れているのだろう。
余っているのは袖だけではない。グウェンドリンが着ると裾が膝近くまで覆う。喉元が苦しくなるのでいつも外している上のボタンを、彼女はきちんと止めていた。それでも胸元が随分開いている。その隙間を押し広げるふくらみの白さが、わずかにのぞいていた。
━━グウェンドリン。
彼女のいとけなさが、胸に痛かった。
シーツ越しに彼の膝を温めていた彼女のぬくもりが、急速に失われるのを感じながら、オズワルドは、彼女の細い頸をじっと見ていた。
今、睦み合う、この暖かさも、いずれは。
「離さないでいて」と、あの時彼女は言ってくれた。自分も、そう望んでいる。
しかし。
自分は死の国で、小鳥を見た。その小鳥を追ってここまで来た。彼女こそ、俺の小鳥だったのだ。間違いない。そして、どこかで同じくらい確信がある。グウェンドリンも、いずれ、彼女自身の小鳥を、見出すだろう、と。
それがどのような形になるのか、分からない。まだ彼女は幼いのだ。あの…公爵の館で、メルヴィンを追って歩いていた、自分のように。
そんな時期は、いつまでもは続かない。いつかは小鳥を追って、羽ばたいていく。
きりりと、奥歯が音を立てた。
認めよう。俺はそんなの嫌だ。耐えられない。いずれ飛び去るならば、いっそこの手に掛けても、ここにとどめたい。もしもその時が来たら、今朝、この場で彼女を殺さなかった自分を、俺は必ず、全霊を上げて呪うだろう。
オニキス王。炎の国の王の、醜い執着を思い出す。あの男のなりふり構わぬ熱い思い、まさしくそのまま、俺の思いだ。熱く、頑迷で、貪欲で、身勝手で。彼女を貪らずにはいられない。
ああ、それでも。俺は、そのとき、彼女を送り出すだろう。怒りながら、呪いながら、身勝手な所有欲に文字通り身を焦がしながら、俺は彼女の旅立ちを受け入れるだろう。
愛しているのだ。
玩弄物として傍らに縛り付けるには、俺は、彼女を、愛し過ぎている。
「おいで、グウェンドリン」
静かに呼びかけると、彼女はますます顔を伏せて、おずおずと、無言のまま再び寝台の上に登ってきた。
オズワルドはその体温の接近を最後まで待たず、手を伸ばしてそのささやかな重みを抱き上げると、再び自分の足の間に座らせた。背中から、そっと抱き締める。
「俺の青い小鳥」
彼女の耳を噛むようにしてささやく。夜のうちに髪の香料が褪せて、彼女自身の匂いが濃くなっている。グウェンドリンが嫌がるからあまり言わないけれど、オズワルドはその方がずっと愛おしかった。実は、こっそりミリスに頼んで、強い香料を使わないようにしてもらっている。
「君は、小鳥でも、ツバメのように、勇敢に海を越えて行く小鳥だ」
口に出してしまうと、寂しかった。
ただ俯いて、耳をくすぐる彼の吐息に耐えていたグウェンドリンが、怪訝そうに少し振り返った。
オズワルドは、勇を鼓して続けた。
「運命の呼び声が、いつか強く君を誘うだろう」
グウェンドリンの瞳が驚いたように丸くなった。物言いたげに唇が動きかける、その機先を制するように、オズワルドはかぶせて訊いた。
「俺は、たとえこの一時だけでも、君の止まり木となれているだろうか。君の凛々しい翼が休める枝となれているだろうか」
「勿論です!!」
一声、ほとんど叫ぶようにいらえて、グウェンドリンはその後、絶句した。
疑問や、抗議や、不安や……いろんなものが同時に発言権を求めて、逆に何も言えなくなったらしい。ということが、オズワルドにもはっきり見てとれた。
━━可愛らしい。
思わず微笑むと、その微笑に安心したのか。
「一体、何をおっしゃるのですか。私に海を渡ってどこか異国に移り住めとでもおっしゃるおつもりですか」
グウェンドリンの口もほぐれたようで、ポンポンと言葉が続いて出た。難詰の調子になっていることが、彼女の不安を物語る。
「まさか。俺は、君にずっと傍にいてほしい。そうしてはくれないのかい、グウェンドリン」
「おりますとも!! 勿論おりますとも。どうして離れたりいたしましょう」
言いながら、グウェンドリンは彼の足の上で体をひねり、オズワルドの首に抱きついてくる。
「すまなかった。不安にさせるつもりはなかった。俺の方から君を放したりは決してしない」
抱きなおし、彼女の背中をあやす様に優しく叩きながら、オズワルドは当たり前のことを改めて約束する。ぐずるグウェンドリンが、えぐえぐと鼻にかかった涙声になってきている。しまった、今言うようなことではなかったな。かわいそうに、いらぬ心配をさせてしまった。
それでも、なお、俺は、そのとき、彼女を送り出すのだろう。
そんな、覚悟の後半は飲み込んで。
この朝、オズワルドは、彼女を抱きしめていた。
おしまい。
読んで下さって、有難う御座いました。
発表直前までサブタイトルは「ヒゲとボイン」でした。著作権に配慮してやめました(嘘つけ)
そのタイトルの通り、おっぱいの描写に力を入れてみました。サービス、サービス。
最近、全裸分が不足していたので、夫婦二人で全裸です。ほとんどずっとベッドの上だけの話です。登場人物も夫婦二人っきりです。どうしてポルノにならないのか、不思議です。
エロさで言うと、今までで一番エロくないSSなのではないか、と。
グウェンドリンの裸ワイシャツにも挑戦してみました。ハダワイと略すのでいいんでしょうか。
でも照れくさくて描写できません。まあ、おれの文章力で描写云々なんてね。虚しいだけですけど。
コスプレはファンフィクションの基本だと思います。
次は水着とかかな。古城ファミリーで海にでも行くか。もう夏終りだけど。
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