オーディンスフィア 二次創作小説 その4 グウェンドリン×オズワルド 「双翼」
久々のSSです。四本目。 鳥オズですが、鳥グリ風味? グリゼルダ←グウェンドリン×オズワルドと表記するんですか? 業界では。すいません、よく分かりません(>_<) お目汚し失礼いたします。 では。 戛々と、踵の金属が大理石の床を傷つけていた。イライラと踏みならす音は、軽く、ピッチが速い。 ねえさまだ。 グウェンドリンは姉の足音が大好きだった。サイズだけを体に合わせて縮めた、特別誂えのワルキューレ鎧の、涼しい金属音が、いかにもグリゼルダに似合っていた。
姉の鎧の音を頼りに、廊下を曲がって、王城の空中回廊を追いかける。
あ、みえた。まって。
ねえさまは、あしがおはやい。
グリゼルダの小さな影。いつものように一人。姉は普段、側近くに人を侍らせるのが好きではなかった。
大股にズンズン遠ざかっていく。ああ、いってしまう。
姉上!
「あにぇっ……」
噛んだ。
「あいぇ……あえ……」
かみかみだった。
「あ、ね。にゅ……」
ぐむう。
困る。ねえさまがいってしまう。グリゼルダねえさまがいってしまう。わたしの舌が回らないせいで、私は、ここで一人取り残されてしまう。世界が涙でぼやけた。
「……ねえさま、で良い」
不意に、頭の上で涼やかな声がした。
「ねえさま!!」
なぜか、間近にグリゼルダがいて、半分困ったような笑顔で、グウェンドリンを見下ろしていた。まだ三歳のグウェンドリンには、姉の笑顔に含まれるものは、分からない。
いかれなかったのだ。そばにいてくださるのだ。にわかに世界が明るくなったような気がする。
「今泣いたカラスが、ね」
そう言って、ねえさまもほほえんでくださった。
やっぱりねえさまはやさしい。飛びついて抱きつきたい気持ちを、がまん。ねえさまはぎょうぎのわるいこはおきらいだ。
「どうしたのですか、グウェンドリン。こんなところに一人で。危ないではありませんか」
そうだった。グウェンドリンは握りしめたものを、出来る限りうやうやしく差し出した。
「お花? とてもきれいね。私に?」
うん。と、無言でうなずいてしまう。本当は、大人が贈り物する時のように、いろいろと口上を考えてきたのだけれど、あがってしまって、それどころではない。
幼児の体温にしっかりと握りしめられた花は、萎れかけている。しかし、城の中庭の庭園のものだろう、精一杯色とりどりに、選んでくれたのはグウェンドリンだろうか。十分美しかった。
━━せっかく庭師が丹精したものを。
と思わないでもなかったが、無論口にはせず、グリゼルダは、まるで騎士が姫君から勲を称されるかのように誇らしく受け取った。
「やさしい妹。ありがとう、とてもうれしいわ」
ようやく、ほぐれた様に、妹姫が芯から微笑んだように思えた。
自分は、この妹を…怯えさせてしまうのだろうか。姉の内心の軽い落ち込みをよそに、妹は何ごとか、回らない舌で夢中に語りだしていた。
「あのね、あのね、ねえさま、ワルキューレたちが、みんなが、ねえさまはすごい、って。『てんさい』だといっていたのよ」
「……そう」
そこはグリゼルダもまだ七歳である。臣民の賛辞の含むものは、分からない。
素直に、今日の誇らしい昂揚が蘇った。
今日、彼女は初めて。飛んだのである。
飛んだといっても、歩幅10歩分くらいをふらふらとすべったに過ぎない。
とはいえ、魔法の翼を装着するに十分な魔力を養うことさえ困難であるのに、七歳の童女が滑空したというのは、ワルキューレの制が導入されて二十余年、前代未聞であった。これが5年遅くとも、なお早熟と評価されたはずだ。
それは勿論誇らしい。しかし、このことだけでなく。
グリゼルダを貫いた、あの昂奮。
空を飛んだ。この足が、大地を離れ。この身が。重力に縛りつけられていたことを初めて知った。
これまで想像もしなかった世界。天と大地の間で、自分はたった一人。墜ちても、飛んでも、叩きつけられて死ぬだろう。その孤独。そして、その充実。身内に力が湧くのを感じた。これが、自分なのだ、と。本物の自分なのだとわかった。
この、自らの翼とともにあるうちに、死んでしまいたい。そう願うワルキューレたちの願いが、痛いようにわかった。
自分は、今日、ワルキューレになったのだ。
はっと我に返る。気づくと、つい、三歳の妹相手に熱弁をふるっていた。こんな幼子に何を熱く語っているのか。
しかしグウェンドリンは飽いた風情もなく、目を輝かせて、姉の昂奮をともにしていた。
ねえさまはすばらしい。やはり、なにかまたすてきなことをなさったのだ。
「てんさい」という言葉の意味は分らなかったが、ねえさまのすばらしさを称えているのだろうと思った。そして、ほんとうに、そうなのだ。わたしの、ただひとりの、ねえさまは、とてもすてきで、おつよくて。
「ねえさまはすごいのですね!」
「何を言うの、グウェンドリン。私など、まだまだです」
「そんなことはありません! おとうさまもきっとおよろこびです!」
「…ええ。お父様もたいそう褒めて下さって、今度の誕生日に魔石の槍をくださるそうです」
ああ、なんてすごい。おとうさまが、ほめてくださるなんて。
感激のあまり思わず自分の体を抱きしめて、グウェンドリンは声も出なかった。
「驚くことはない。お父様は公正な方よ。いずれ、お前にもお言葉があろう」
「おとうさまが!」
わたしに、おことばを。ねえさまと…ねえさまとおなじように?
目を丸くするグウェンドリンの顔が面白くて、グリゼルダはくすくす笑った。
「そうよ。そのためにも、精進しないといけませんよ、グウェンドリン」
「はい!」
力いっぱい「よいおへんじ」をした。父も姉も爽やかな返答を好む。グウェンドリンは「よいおへんじ」をするのが大好きだった。
「しょうじん」がなんだか、ぜんぜんわからない。でも、きっと、ねえさまのまねをして、なにかをがんばるということなのだろう。グリゼルダねえさまが、いまみたいなくちぶりでおっしゃるときは、いつも、そういうことだ。
グウェンドリンは、姉の後をついて同じことを真似するのも、大好きだった。
「ねえ、グウェンドリン。貴方は、この国と王に仕える武将には、何が必要だと思いますか?」
精進から連想したのか、グリゼルダはそんなことを妹に問うた。
言葉一つ一つの意味はほとんど理解できなかったが、聡い妹は、それが質問でないことは心得ていた。黙って、言葉の続きを待った。
「俗に、智勇仁と言うわ。知恵と勇気と、仁、優しさ。将たる者の持つべき美徳だと。例えば、そういうものが必要だと、あなたは思うかしら?
ええ、確かに、備えている方が良将でしょう。でも、ここ、ラグナネイブルでは。
グウェンドリン。あなたはいずれ、私と共に、この国の双翼となって、来るべき最後の戦いを翔ける者。お聞きなさい」
「はい!」
息継ぎをするグリゼルダが、満足したように小さくうなずいた。よかった、「よいおへんじ」をじょうずにできた。
姉が、声を凛と張った。将帥を前に号令する、父の姿が重なるようだった。グリゼルダは朗々と続けた。
「でも、このラグナネイブルでは。もっと大事なことがあるのです。
それは『献身』です。
我と我が身を、国と、王の為に、捧げつくして惜しくない、と。その潔さこそが、力となり、国の勝利となるのです。もし『献身』なくば、なんの智勇仁だろうか。
良いですか、グウェンドリン」
「はい!」
「私たちは。我ら姉妹、賢王オーダインの娘として、ともに、一身を擲ち、祖国と王に報いるのです。ともに羽搏き、ともに戦い、そして、ともに逝きましょう」
「はい!」
すばらしいきもちだった。
ねえさまが、まるで、友のように、対等のもののように、私に。ともに双翼たらん、と。熱いものがつきあげるままに、私は誓った。どこまでも、いつまでも、お側に居ります、姉様。グウェンドリンは、あなたの妹です。
目が覚めてしまった。
バルコニーから吹き込む夜風が(もはや未明と言って良い時分だが)、火照った頬に心地よかった。
懐かしい夢だった。
やさしい夢だった。
決して。悲しい夢ではなかったのに。
どうして涙が止まらないのだろう。
そんなはずはないのに、寒かった。
バルコニーにむき出しのようだが、城主夫妻の寝室として設計されたこの部屋には、魔法の仕掛けが念入りに施されていて、雨風や冷気がそのまま吹き込むようなことはない。
だから、そんなはずはないというのに。
夜明け前、世界は暗く、寒かった。
寝具を掻き合わせ、ベッドの上に膝を抱えたまま蹲る。涙はまだ止まらない。
世界中で、ひとりぼっちみたいだった。
不意に、腰に太い腕が巻きついた。
「オ……オズワルド様?」
お起こししてしまったのか、と恐縮に身を強張らせる。
同衾の夫は、寝返りをうって、座ったままのグウェンドリンの、腰のあたりを抱くような姿勢になって……。
そのまま寝息を立てている。
この眠りの深さは、戦士としてどうなのだろう。今なら、この大陸一の剣士の寝首を掻くのも容易いのではないか。自分はこれまで、こんなに安んじて眠ったことはない。今までは、自分や……姉様は。
再び、気持ちが沈みかけたグウェンドリンの肩を、オズワルドの右手が掴んで、ぐいと彼の胸元へ引きつけた。乱暴と言うほどではないが、抗えぬその膂力に、グウェンドリンは引き倒されて、彼の胸の中に抱きしめられるような姿勢を余儀なくされた。……別に嫌ではなかったが。
起きているのか、としばらく彼の寝息をうかがうが、「ぐうぇ」とも「うげ」とも聞こえる呟きをもごもご漏らした後は、穏やかに規則正しい寝息を立てている。
━━今の呟きを、自分の名前と思ってしまうのは、自惚れが過ぎるかしら。
彼の胸に耳をつけると、心音が聞こえる。穏やかで、深い。とてもゆっくり。最初はちょっと心配になるくらいだった。が、彼のゆっくりさに、慣れてきた。
オズワルドの左手が、そっとグウェンドリンの頭を抱え。やわらかく、指を髪に入れて。ゆっくりと、優しく、そっと梳いていった。
グウェンドリンは、やはり、涙が止まらないのだった。
おしまい。
読んで下さって、有難う御座いました。
「あねうえ」が上手く発音できない三歳児を書きたかっただけです。
おれのSSにしては珍しく、グウェンドリンがエロ妄想もせず、全裸にもなりません(改めて書くと、すごくダメだ)。
そこにご期待の方はすみませんでした(いねーから)。
きっと、この夜は、すでに十分に満足されたのでしょう(書けば書くほどダメになるよね)。
ところで「夢落ち」です。
「夢落ち」使用は、SS書きの末期的症状と聞きますが、末期なんだ(はやっ)。
前半はグウェンドリンが見ている夢で、ラグナネイブル王城が舞台です。ゲームより10年くらい前でしょうか。
後半は、いつもの古城が舞台です。例によって、「ワルキューレ」の最後と、終焉開始の間の時期。
情景描写下手くそなんで、分かりづらかったかもしれません。すみませんでした。
オズワルド様は、多分、起きています。
たぶん、夢の中で口が回らなかったとき、同じように、寝言で「あにぇっ!」とか叫んでいると思うんだ、グウェンドリンは。
オズワルド様はその時点で起きました。でも、グウェンドリンに気まずい思いをさせないように、タヌキ寝入りです。……起きていると分かったら、更に搾り取られてしまうかもしれないしな。きっと今夜の分のペインキラーやアンリミテッドパワーは使い切ったのでしょう、たった48個しか持てないんだもんな(もう黙れ>おれ)
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