オーディンスフィア 二次創作小説 その3の前 グウェンドリン×オズワルド 「タイタニアン ナップルパイ ━前篇━」
ファンフィクションです。三つめ。
最初から書きたかった話だったのですが、ずいぶん難航しました。
頑張って、オズワルド様を出してみました。むつかしいなぁ。好きすぎて、うまく書けません。
お目汚し失礼いたします。
舞台は辺境の古城、「ワルキューレ」終章から数日後、「終焉」の前です。
では。
「おまちどうさま」
いつもの白絹のシャツの上に、シンプルな黒い綿のエプロンをつけて、自らワゴンを押して食堂に入ってきたオズワルドは、はにかむように、似合わない台詞を口にした。
食堂と言っても、階下の、合戦の出来そうな大食堂ではない。もともとは士官専用食堂して用意されていたらしい、小さな部屋だ。質実剛健を旨とする古城の中では、比較的、贅を凝らした造りと言っていいだろうか。チークの磨き上げられた床の上に、小さな丸テーブルと四人分の席が設えられていた。
テーブルと椅子は、グウェンドリンとオズワルドがオデットの国から帰った後に、ブロムが作った調度の一つだ。木工・指物は彼にとっては余技の筈だが、材木の切り出しから仕上げまでたった一人で、見事な家具を数日のうちに作り上げてしまう。
古城のもともとの施設は無骨なばかりで、若い二人の新生活にそぐわない。ブロムの手すさびが、古城の生活をずいぶん華やがせてくれている。
グウェンドリンの後に従ってきたブロムが、小鳥と果物の彫刻が可愛らしい彼女の椅子を引いてくれた。椅子もまた彼の作品である。
ブロムもまた彼女の左隣の席に着くと、オズワルドの押すワゴンが、そろそろとテーブル横に近寄った。
長身で手足の長いオズワルドは一見、細く見える。しかし、肩幅はグウェンドリンの倍くらいはあるだろう。抱きしめられるとすっぽり包まれる気がする、厚く広い胸板。
オーバーオールエプロンから大きくはみ出した逞しい肩が、グウェンドリンに彼の肌の匂いを思い出させる。思わず深く息を吸い込むグウェンドリンの鼻孔を、甘い香りが擽った。
ワゴンの大皿から、香ばしく立ち上る、ナップルパイの香りだ。
今朝早くから、オズワルドが、厨房に入って数時間。ミリスの指導を得ながらとはいえ、自ら生地から捏ね上げた力作だ。
「いい匂い……」
思わず呟くグウェンドリンに
「ああ。うまく焼けたよ。ミリスのおかげだ」
お茶の支度をするプーカと微笑みあい、そのままの笑顔をグウェンドリンに向けてくる。
こんなときのオズワルドの笑顔は、得意げで、屈託なくて、いっそあどけないと言ってもいいほどで。グウェンドリンは引き込まれてしまうのだけど、同時に、どこかに隠れてしまいたくなるような。どうにも落ち着かなくて、思わず目を伏せてしまう。
せっかくの笑顔のオズワルドと、本当は微笑み合いたいのに。
この、年若い、自分の「夫」(その単語を思い浮かべることさえ、動もすると心中の波立ちが呼吸を難しくすることがある)は、この、短い「夫婦生活」の中でも、日々、あたらしい表情で自分に応えてくれる。
毎日、自分が思っていた方とは、違う……不思議なのは、どんなに予想と違っていても、それが不快だったり、がっかりしたことが、一つもないことだ。
今も。
オズワルドは、慎重に、ナイフを、彼の作品の上におろそうとしていた。
━━こんなとき、この方は、こんな神妙な面持ちになるのだわ。
グウェンドリンはどうしていいか分からない。
彼を、どうしよう、いっそ、食べてしまいたいような気持ちだ。
彼女の祖国には、男性を“かわいい”と感じる習慣が無い。
彼女は自分の、吹き出したくなるような、あるいは抱きつきたくなるような、その感情の起源も表現も分からぬまま、ただ目を瞠いて彼のナイフを握る指を見つめていた。
切り口から、湯気とともに更に豊かな香りが広がる。
「うん。本当に良く焼けた」
思い通りの出来栄えだったらしい。満足げに小さくうなずいて、オズワルドは、パイを小さく切り分け始めた。
自ら給仕役も買って出たオズワルドの身ごなしは、いつものように優美だった。
グウェンドリンは、うっとりと見惚れて思った。
━━隙がない……
さすが、達人。どこから斬りかかっても、見事に跳ね返されそうだ。
しかし、その達人は、今や彼女の剣なのだ。グウェンドリンは満足だった。
「さあ、召し上がれ」
テーブルの上に、お茶とパイの皿が4人分揃って。オズワルドが優しく言った。
さて、目の前におかれたパイは、グウェンドリンの、戦士としての摂取量を思えば、かなり、ささやかなものだった。
もっとも、ミリスやブロムと同じ量である。
━━パイなら、あの大皿まるごとでも、二口くらいだわ。
グウェンドリンはそう思いながらも、そんな食べ方が、いま、城主の奥方として正しい作法なのか、自信がない。
瞬く間に平らげれば、オズワルド様はお喜びかしら?と本気で思案する。
でも、この機会を、時間をかけて楽しむ誘惑に勝てず、おずおずと、ほんの少しだけフォークにとって口に運んだ。
「……おいしい」
正直な感想がおもわず、漏れた。改めて皿の上の菓子を見直す。意外、と言ってはオズワルドに失礼だろうか。
「良かった。お気に召していただけたようだ」
エプロンを外して、グウェンドリンの向かいの席に着いたオズワルドが、くつろいだ声で言った。ミリスとうなずき合っている。……この二人、いつの間にこんなに仲良くなったのかしら。
「ナップルパイ、か」
ブロムが、もぐもぐと咀嚼しながら、ゆっくりと言った。
「久しぶりだろう。グウェンドリンが、ナップルパイを食べたことがないというものだから、作ってみた」
言いながらオズワルドは、切り分けた時のパイ屑を、大皿から直に指でつまんで口に運んだ。
━━子供みたい。
微笑ましくグウェンドリンの見つめる先で。
行儀の悪い真似をしても野卑な感じのない、その指先。
オズワルドが舐めとった。
舌が。
その唇。
あ……。
い、いけません……そんな風に舐めては……
ほほを上気させた彼女の目は、おもいきり泳いでいた。
その傍らで、ブロムとオズワルドの間に落ちた沈黙は、重かった。
━━本当に、良く焼けた。思った以上に。
黙々と噛みしめて、オズワルドはうなずいた。我ながら、おいしい。子供の時に、食べた……そのままの味だ。
━━小さい頃はよく、ブロムを手伝って作ったものだった。
今、自分はそのことを、穏やかに、話せるだろうか。
右隣の、老いた小人のさびしい気配。昔から小さい人だった。
でも、こんなに小さかったかな。
いや、自分が大きくなったのだ。自分は大きくなった。……変わった。あれから。
様々なことがあった。
ブロムは、俺にすまない、と思ってくれている。
死の国で再会した時は、その気持ちを重く、むしろ迷惑に思った。怒りさえ感じた、と言っていい。かえって、自分が惨めに思えた。
俺は、何者も幸せにできなかった。ただ、死と破壊があるのみだった。メルヴィン。お前に、俺への愛がなかったとしても。俺はお前のために、何もしてやることができなかった。俺は。何も成し遂げられず。なにも守れず。
『役立たずめ』
メルヴィンの最後の言葉が、今も鮮やかに耳朶をうつ。今も、だ。
……今なら、ブロムの気持ちが分かる。
ブロムも、きっと。同じだったんだ。自分の最高傑作の魔剣の、本当の意味。可愛がっていた少年の命を蝕む態をみて、ブロムもはじめて、自分のしでかしたことに気付いたのだ。
自分の生涯の虚しさ。いや、単に虚しいだけなら、まだましだった。世の人には地獄の災厄そのものだったろう。人を傷つけ、取り返しのつかない悪業を重ね。信じた者にも、裏切られた。
ブロムも同じだったのだ。
だから、ブロムだけが、世界でたった一人。すべてを知りながら、俺を許してくれた。俺の罪をすべて、自分がになうべきだ、と、言ってくれた。
グウェンドリン。俺の小鳥。俺の、輝く、いとしい星よ。
青い羽根飾りを揺らし、文字通り小鳥がついばむように、ナップルパイの欠片を口に運んでは、目を丸くしている可愛い伴侶を、オズワルドは眩しく見つめた。
虚しかった俺の胸を、ようやく満たしてくれた君よ。
君を知って、俺は、初めてこの世に生まれおちた。誰でもない孤児だった俺は、俺自身となった。今なら、俺は、君のために世界とも戦える。君がこの世に安らいで羽搏くためになら、世界の終焉だって斬り伏せよう。
それほどに、いとおしい君を。こんな、自分が。
それでも、君を、求めても、いい、と。許してくれたのは、ブロムだ。
血に汚れたこの両腕に、君を抱く。その穢れを許し、引き受けてくれるブロムがいたからこそ、畏れに負けなかった。
ブロムは、今も、ここに、俺の隣にいてくれる。
2人で並んで、もくもくとナップルパイを食べる。以前もそうだった。口数の少ない老人で。ドワーフはみんなそうだが、鉄床と鉱石のことしか頭になくて。
それでも、静かに伝わってくるものがあった。
いま、自分は、あの頃のブロムのように、出来ているだろうか。
ブロムは、今も、俺に悪いことをした、と思っているだろう。その、気持ちも分かる。俺が仮に「許す」と心から伝えても、ブロムは簡単には受け取るまい。
でも、同時に、分かる。
ブロムは、今の俺を、喜んでくれている。俺が、幸せであることを、ブロムは。まるで、我がことのように。俺は、それが嬉しい。俺の幸せが、ブロムも幸せにしている。信じられない。俺が。こんな、悪鬼よりも忌まわしい死の化身が。
━━幸せであっても、いいのだ。
そのことが、俺がどんなにうれしいか。
このナップルパイには、そんな意味がある。あの頃、なぜか、メルヴィンが、急に、俺に食べさせると言い出して、ナップルの実だの、ルーワートの種だの、みんなで探した。ルーワートは珍しくて、結構探すのが手間だった。
あの頃は、楽しかったな。俺は、最近、あの頃を良く思い出すんだよ、ブロム。
まるで、オズワルドの内心の呼び掛けに、いらえるように。
「……懐かしいのう」
静かに、ブロムが言った。
「……うん」
七歳のときと、同じ返事。
自分がまだ。魔剣を持つ前の。
続く。
読んでくださってありがとうございました。
ドリオズというより、オズブロ? 需要あんのかよ。
っていうか、グウェンドリン馬鹿すぎでしょ。脳味噌わいているんじゃないの。
……馬鹿はおれだろ。ダメすぎ。どうして、おれが書くとグウェンドリンがこんなダメダメちゃんなのでしょうか。中学生のようにエロ妄想で頭ぱっつんぱっつん。
ま、覚え始めで、今が一番楽しい時期ということで。
しかし、難しかった。どう書いても、オズワルド様がかっこよくならなくて。
諦めて、最後はブン投げです。
すいませんでした。オズワルド様のファンの方には申し訳ない。これでも随分がんばったんですよ。
裸エプロンは男の夢、などと申しますが。
ぶっちゃけイケメンエプロンも乙女の夢です。(断言か!)
というわけで、オズワルド様乙男化。お菓子作りに挑戦してもらいました。
長くなったので、今日は前半だけです。続きはまた今度。
後篇もご覧いただければ幸いです。
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コメント
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はじめまして。[est]の水月と申します。適当に造り上げた捏造設定を気に入っていただけただけでも光栄ですのに、過分なお言葉を頂戴してリンクまでしていただき、本当にありがとうございます。
ご案内ページが判りづらかったようで、申し訳ありませんでした。もう少し使い勝手のよいデザインに直せればよいのですが。。。(何分、配慮も足りなければセンスにも欠けておりまして・汗)
にぽぽだい様の考察も拝読させていただきました。神話や寓話に通じるOSという作品の、緻密なジェンダー的解釈の数々に、ひたすら感心しております。そこで浮き彫りにされる、グウェンドリンという少女の未熟さがとても魅力的で、そこから急激に熟していく過程にある、SSでの彼女も可愛らしくて大好きです。
『タイタニアン ナップルパイ』の、オズワルドとブロムの相似的関係もよいですね。寡黙なじいさんと孫、のような素朴さと共に、戦友としての信頼がある、というか。そこで閉じられているのではなく、グウェンドリンやミリスにも人間関係というものが派生していく展開が秀逸だなと思いました。
オズワルドのエプロン姿に萌えました! 料理、上手そうですよね。彼の指使いなども、すごく艶っぽくてどきどきしました(笑)。
後篇も楽しみにしております。
それでは、長々と失礼いたしました。
今後ともよろしくお願いいたします。m(_ _)m
投稿: 水月 七 | 2007年7月23日 (月) 23時03分