オーディンスフィア リプレイ日記12 「ワルキューレ」3章6幕━罰・失われた翼━
本当は、「オヤジてめこのくそ野郎」みたいな気持ちが煮えたぎっていても、それを認めること自体、父殺しの恐ろしさが湧いて、できない。いや、お父様はやはり正しい、自分がダメだからいけないんだ、と、自ら、処刑台を登っていく。
そんなグウェンドリンが、父の腕の中で眠りを迎える、このシーン。
ひょっとしたら、物語開始以来、あるいはそれ以前の彼女の生涯を通じても、一番安らかな顔をしているかも、みたいな演出が。
胸が痛みます。
やはり、自分が悪い子だったんだ。お父様はやはり、正しく、王の威厳に満ち、偉大でおられる。その裁きに沿い、罰を受ける。その苦痛の中で、ようやく父親に抱かれている感じを持つことができる。そんな想像をしました。
ワルキューレたちの、死をもって誇りを全うする、みたいな感じも、同じ気持ちからなんだろうか、などと想像しているのです。
ところで、この罰なんですけど。
「いきずりの男に征服され、誇りと名誉を奪われ、生涯仕えながら子を産み、老いていく」
もう、凄い飛躍して、おれの想像だけですが、グウェンドリンの中の母親像って、そういうイメージだったのではないかな、とかさ。
頑張って頑張りぬいたお姉さんが、敗死(リングフォールドに敗れたのではなく、父王の冷酷さに敗れた)。それは、同時に、姉に仮託されていたグウェンドリン自身の敗北、自分の信じていた世界が崩落する体験だったんじゃないかしらん、ということは、以前にもしつこく書きましたね。くどくて済まんのう。
でも、その、囲繞する世界が崩れ去って虚空へ放り出される感じ、って、原点は、お母さんとの間で、体験したのではないのかな。おそらくは、グリゼルダも。
お母さんみたいに、女性として、妻として、母として生きることが、いかに報われない、恐ろしい、悲しいことか。思い知って、姉妹が、じゃあ、もう、女性であることなんか無視しよう。今日から、我らは戦士だ。ゆくぞ妹よ、おうよ姉者、みたいな少年漫画的盛り上がり、どこか強がりがすける、薄っぺらい空元気奮って、走り続けてきた。しかし。
いま、たった一人になったグウェンドリン。お姉さんの死をさえ、まだ気持ちの中で整理できていない。そこに、改めて、母の人生の、空っぽさ、意味の無さが突きつけられる。女であることが卑しいだけではない。母は、妻としても、奴隷としてさえも、愛されていたのではなかった。
2章の6幕で、ベルベットの素性を知って「!…娘?」と、立ち尽くすグウェンドリン。全編でたった一つ、声なきセリフ。小鳥さえ現れてきてくれない。全てが、腑に落ちる。
自分が、苛立ち、怖れ、なんとかして逃げ延びようともがき続けてきた、それ。
ついに追い付かれてしまった。
「愛もなく、何故創った…。」
映画「フランケンシュタイン」ケネス・ブラナー版のコピーですが。原作者、メアリー・シェリィは女性でしたね。彼女の母は、彼女を産んだために命を落としたそうですが。なんか、そんなことを連想してみたりとか、さ。
もう、生きていけない。生きていく理由がない。生きていく理由を持つためには、死ぬしかない。
おれ、自分でも矛盾していると思うんだけど、何かそんな感じの想像が働いてしまう。
ところで、全然関係ないんだけど。無くもないか。
一応、この作品、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」を原作としている、ってことになっているじゃないですか。
どっかで「そのまんまだ」と書いている人がいて。え、でも、全然違うよね。完膚なきまでに。そうじゃないのかな。おれなんかすごい誤解している?
何が言いたいかというと、ワルキューレが罰として結婚させられるという物語が、大昔から言い伝えられている、って、すごいなぁ、ってことです。
原作とされる「ニーベルングの指輪」でさえ、もう100年以上前のものですが、さらにその元ネタが、口伝のサガやエッダに遡る。少なくとも数千年? その中で繰り返し、天翔ける戦乙女と、その罪と罰の物語が語られてきたわけでしょう。いつも、弱者を救うために戦う心優しさが罪であり、結婚して家庭に入ることが罰であったようだ。
きっと、それぞれの時代で、結婚の意味や価値は違ったんじゃないんですか? 知らんのですが。
でも、繰り返された。自体も地域も移りながら、語られなおされた。
その物語が、また、ここで。それはどうしてなんだろうか。ふしぎだなぁ、とぼんやり思ってしまったりするわけですよ。
ぼんやり不思議がっているだけかよ。
そこを考えろよ。原作とか、それ以外の元ネタとかとの相違点を調べ上げて、どんな経緯でそんなことになっているのかを論じる、ってのが、世間で所謂、普通の「考察」なんじゃないのかね、って自分に突っ込み。
でも、おれはオーディンスフィアサーチ様にジャンル「考察」で登録しておきながら、その手のことは、あえて出来る限りしないようにしていました。いや、済みません、見栄張りました。物を知らなくて出来ないだけです。
いや、おれ、そういうの苦手で。ほんと。
それでも、この罰の内容は、このゲーム全編を通じて、いちばん、「原作」に似ているように感じて。このゲームは、これをやりたくって、「ニーベルングの指輪」を原作にしたんじゃないのかな、って想像しているんです。現代日本で、しかもゲームとしてやりたくなった、って、一体、どんな気持ちからなんだろうか、とかさ。
だれか、考えてくれないかな。そういう考察サイトがあったら、教えてください。
いや、おれだってね、ちょこっとは自分で考えてみたんですよ。ちょこっとは。
「ニーベルングの指輪」でのワルキューレは、自身も半神で、不老不死。「負傷して戦えなくなったら男の奴隷」という、今作のワルキューレの競走馬みたいな設定とは全然ちがう。
しかし半神だから、その力は不変のものではなく、処女性に拠っている。結婚が罰になるのは、神性を奪い、人間として老いて死ぬことになるから。
もっと古代の神話のワルキューレは、結婚しようが、子供産もうが、その力を失わず、夫や子供たちに大いに頼りにされたり、あるいは恐れられたり(^_^;)しているそうですが。処女崇拝を絡めているのは、ワーグナーの趣味なんでしょう。プライベートでは、人妻好きの人だったようですけどね。
今作では、その辺は、古代版の設定みたい。たぶん遅くともレヴァンタンを倒す頃までには、オニキス王が嫉妬交じりに指摘したような展開を遂げていると思うんだけど、グウェンドリンはいささかもその力衰えず、むしろ全編で最大の勳をあげるわけでしょう。
つまり、今作では、結婚に実害はなくて、どこまでも名誉と尊厳だけの問題ということなんだろうかなぁ、とかさ。
じゃあ、ここでの名誉と尊厳ってなんだろうか、って。
ラグナネイブルのワルキューレは、生き残って老いれば、生き恥が待つばかりだから、戦場に果てることに栄光を求める。悉皆死兵となるわけだから、そりゃ強いでしょう。しかし、これだと別に結婚する前から、国家の奴隷なわけですよね。国家というか、しきたりというか。まあ、ラグナネイブルでは、男性の生き方も大して変わらない気がしますけど。
さらに過酷なのは、オーディンスフィアは神話なのに、神がいない。オーダインは強大とは言え、エリオンの一角に蟠踞する一梟雄にすぎないわけでしょ。国家に仕えることが、必ずしも神話的正義を意味しない。
名誉、ってのが凄く空疎なんですよね、この物語では。
なんか、政治的主張とか、背後にあんのかなぁ、とかさ。怖くて突っ込めませんが。
ふと「親のいいなりに、見も知らぬ男に征服され、誇りと名誉を奪われ、生涯仕ながら子を産み、老いていく」って、日本の戦前とかだと、普通の女性の当たり前の人生だったりしないのかな、とか思ったりしてみたり。いや、テレビドラマとかのイメージだけで言っているんだけど。
おれたちの祖母、あるいはそれ以前の世代?
戦後、それに反発して、女性を取り巻く環境と世界が変わったと聞きます。「戦後強くなったのは女と靴下」って言葉があったらしい。「キャリアウーマン」「社会の女性進出」という言葉が出来たりして。一方で「職場の花」なんて言い方もあって、昭和40年代くらいは女性は定年30歳ってのが当たり前だったらしいですよ。ありえねえ。
おれたちの母の世代は、そんな中で少女時代を過ごしていたはず。
そういう感じって、古臭いようでいて、寿退社って言葉はまだ生きているし、現実に行われている。3年くらい前だっけ、「負け犬」と「勝ち組」って流行語になって、未だに、働く女性と専業主婦の対立構造って、それなりのリアリティがあるのだ、ってことが分かった。
そんなことを思いついて連想したのは
グウェンドリン母=祖母世代
グリゼルダ=母世代
グウェンドリン=子供世代
という世代的構造があるんじゃないか、とかさ。
さっき「男に征服され、生涯仕えながら老いていく」って、グウェンドリンのもってる母親のイメージでは、みたいなこと書いたのは、こういう発想からつながっているところもあったりするかも。…逆かな? 逆かも。
などと、いくつか、テーマは思いついたんですよ。
でもさぁ。どれも深くて重くて、なぁ。
まじめにやったら本になりそう。相当、研究が必要そうだし。誰か、こういうこと、すでに考えておられる博学の人とかいらっしゃらないでしょうか。
ああ、やっぱ、だりぃ。おれには無理だ、考察。
本筋に戻ります。
3章6幕2節。
辺境の古城の一室で、一人目覚めるグウェンドリン。
バルコニーから遠く、父王の住まう山を見上げ、「…私はもうワルキューレではない」と呟く。
初古城! 初ドレス! 初ベッド!
このドレスとベッドがかなり衝撃的で。凄い「女」って感じがしました。ベッドが妙に寝乱れているし。後で見たら、タイトルも「失われた翼」だし。
「またあの時の夢を見ていたのね…」ってセリフの、底知れない喪失感。
残酷な覚醒感。
古城とドレスの絵画的な美しさが、本当に素晴らしくて。
だからこそ、その美しさでも、埋めることのできない寂寥の深さが、劇的で。
このシーン、素晴らしいと思います。
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