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2007年6月23日 (土)

オーディンスフィア 二次創作小説 その1 グウェンドリン×オズワルド 「湯化粧」

むしゃくしゃしてカッとなって書いた。後悔はしてn(ry

SSというか、おれはファンフィクションという言い方が好きですが。

お目汚し失礼いたします。

舞台は辺境の古城、ワルキューレ終章ラストシーン、その日の夕方。

では。

 



 

戦士であった。

王の娘として、ワルキューレであったのだ。

痛みを知っている。

刃に切り裂かれる痛み、炎に焼かれる痛み、鏃に打ち貫かれる痛み、毒に爛れ腐る痛み、棍の一撃にへしゃげる痛み、叩きつけられる大地の砂礫に肉を削りとられる痛み。

王宮の薬師の技こそ讃うべし。一見、疵一つない、どころか、生まれたての赤ん坊の白さと滑らかさを保つこの膚だが、本当に生まれた時のままに生き残った部分は、ほとんどない筈だ。

あらゆる面で、自分など比ぶ可くもない勇者であった、姉。しかし、グウェンドリンは密かに、打たれ強さだけは姉にも迫る自信があった。防御も回避も、技量が姉に劣るから、という理由であれば、誇れることではないのだが。

幾多の戦場で、あらゆる艱難に耐えて勝ち残った。今更、どんな苦痛にも動じぬ自信があった。

しかし。今日。

━━あの方は、私を、星だと、おっしゃった。

光だと。輝きだと。それから……私の肩を抱き寄せて……

耳朶を優しく叩く彼の囁き。黒鎧の鉄錆の匂い。手入れされた武具の、良質の油の浸み込んだ革の匂い。そして、なんだろう。これは……彼の首筋から立ち上る……彼の銀髪が揺れるたびに、グウェンドリンを包み込む。これは……あの方の匂い……?

ポチャリと水面が揺れた。彼女が肩までつかる浴槽の湯が、急に温度を増したかのように思えた。いけない。目が回りそう。苦しい。熱い。胸が……。

「グウェンドリン様、どうなされました?」

ミリスが穏やかにグウェンドリンの顔を覗き込んでいた。

「あらあら、おのぼせで御座います? お湯がお熱うございました?」

「だ、大丈夫です。なんでもありません。…いえ、お湯はちょうど良いわ。そうね、でも今日は少し私、おかしいみたい。もう上がった方が良さそうね」

過ぐる年、タイタニアとの戦いに備え父王オーダインが直々に手を入れたこの古城は、飾りの邸宅ではない。大軍を養うための設備は、住むには無骨すぎ、二人には広すぎる。しかし自身も優れた魔法使いである父王の細心が行き届き、中でも、城の最も高い所にある、汲めども尽きぬ魔法の泉水を、グウェンドリンは気に入っていた。ミリスの差配で泉水のすぐ近くの部屋にグウェンドリンの小さな化粧室が設けられ、ブロムが彫刻を施してくれた可愛らしい浴槽が備え付けられていた。

浴槽から上がって、ミリスに簡単に体をぬぐわせ、いつものように、浴槽の隣にしつらえられた温石の寝台にうつ伏せて、ミリスの肉球が背中に「秘伝」の乳液を揉み込むころには、グウェンドリンの鼓動もやや落ち着いてきた。

━━あの方の、燃えるような瞳。

それなのに、どうしてもまた思い出してしまう。心乱される。

━━あのバルコニーで、初めて、私を、抱きしめて下さった。

オズワルドの長身が、彼女の瞳を覗き込んでいた。その視線は、彼の胸元あたりに頬を寄せるグウェンドリンに向かって、確かに下げられているのに、それでも、なお、彼は仰ぎ見ているのだった。

瞬間、彼女は、自分が本当に輝く星であるかのように錯覚した。

━━おこがましい。私が星だなんて。

王女だったのだし、美貌や武勇を美辞麗句で称えられることには慣れている。しかし、一度だって、自分が本当にそれらの賛美に相応しいと思ったことはなかった。

でも。

あの時は、本当に、自分は、輝く星なのだ、と。信じられた。

いや、今も。

自分の内に永遠に輝く星とともに。

その昂りは、消えたりなどしていない。

━━おそろしい。

戦士であったのに。

王の娘として、ワルキューレであったのに。

いかなる苦痛にも、艱難にも耐えて、生き延びてきたはずなのに、恐ろしくてたまらない。新しく生まれ出た、この、自分が。星としての、見も知らぬ自分が、その昂りが怖い。

目覚めて最初に出会ういきずりの男に、心を奪われてしまった。その王の呪いの恐ろしさ。オズワルドに出会う以前の自分の勁直と単純、そして心の平穏を思いだす。

━━確かにこれは、厳罰だ。

何か気配を察してか、ミリスが手を止めずに話しかけてきた。

「いかがでございます、グウェンドリン様」

呼びかける声は、いつも変わらない。そう言えば、ミリスはいつも「グウェンドリン様」と名前で呼んでくれる。「姫様」などと身分の呼称で呼ばれたことがないような気がする。

「ええ、ありがとう、ミリス。とても気持ちがいいわ」

左様でございますか、と相槌を打ちながら、ミリスは若い女主人のほぐれぬ緊張を感じている。

もっとも、原因に心当たりはある。

「それにしても、ようございましたね」

「…ええ?」

また、内側へ沈みかけていたグウェンドリンが、生返事する。

「オズワルド様が無事お戻りで」

「ええ。そうね。良かったわ」

返答こそ何気なさそうに返したが、びくりと背筋が強張っている。ようやく入浴の火照りが引き始めたばかりだというのに、肌が、耳から首筋から、背中の真中あたりまで朱をのぼせていくのが、ミリスの位置からだとよく見えた。

なんて、かわいらしいこと。

ミリスはこの辺境の古城が好きだった。いつも痛々しく張りつめていた、この独りぼっちの娘に、こんなにからかい甲斐があるなんて。この城に来なければ、わからなかっただろう。運命の神も決して不粋ではない。

━━いいえ、運命の神の御手だけではないわ。

ここにこうしていられることは、奇跡に奇跡を掛け合わせたほどの偶然の末だけど、その偶然を選んで引き寄せたのは、一人の銀髪の青年だった。彼の寡黙な献身を、傍らでずっとミリスは見てきた。もしそれがなければ、グウェンドリンは今頃、どうなっていただろう。彼が酬われますように、と素直に祈りたい。

━━いいえ、もはや酬われていないとは、言えないわね。

先ほどから、何やら挙動不審なグウェンドリン、今、彼女の心を占めているのが何者か、怪しむまでもなかった。

「ねえ…ミリス?」

「はい?」

「オズワルド様は……私のこと……」

数瞬、躊躇うような沈黙に沈んだグウェンドリンは、掠れた声でようやくつづけた。

「オズワルド様にとって、私は……いったいどんな存在なのかしら」

「あらあら」

ミリスは声に笑みが混じるのをどうしても抑えられない。

「だって、オズワルド様は」

グウェンドリンは意を決したように、不安を打ち明けた。

「……なにもおっしゃって下さらないんですもの」

ガラスの小瓶が大理石の床ではじける音が、さして広くもない浴室に響いた。

「も、申し訳ありません、グウェンドリン様。大丈夫、割れませんでしたわ……」

ミリスが珍しく狼狽したような声で、もごもごと詫びながら、かがんで取り落とした化粧水の瓶を拾い集める。

「ミリス、大丈夫ですか? 怪我などはありませんか?」

大理石の上の水滴はよく滑る。顔を向けてミリスを見つめるグウェンドリンに邪気はなく、ミリスが足でも滑らせたのではないかと、心から案じる様子である。

ミリスは思わずため息を漏らした。

━━どうも、本気で、おっしゃっているご様子だわ。

「……グウェンドリン様は、あれでもまだ不足……いえ、オズワルド様が、本当に、お気持ちをおっしゃっておられない、と……?」

「……ミリス、あの……あのね……聞いてほしいの。」

伏せた顔から真っ赤な耳だけを髪からのぞかせて、時折つっかえながらも、早口で、グウェンドリンは夫婦の会話を打ち明けはじめた。

ミリスは節度ある侍女である。主人夫婦の私生活に、必要もなく踏み込むつもりは全くない。

しかし、彼女の女主人の夫は、鷹揚というか、羞恥心の在り方が特殊なようで、何時でも、どこでも、ためらわず、憚らず、低くよく通る声で、朗々とその思いを謳うのだ。

用が言いつけられた時に備えて、柱の陰に控える立場の者としては、無断では立ち去れないし、かと言って、わざわざ退去の許しを求めるのも不粋なようで、ひたすら気配を殺して家具になりきるしかない。

身分の高い方には、往々、そんな無頓着さがあると聞く。オズワルドは「死神と取引した闇の剣士」と世界に聞こえ、ミリスには血腥いばかりの印象だったが、実は、彼は稚ないときから、リングフォールドの宮廷で妖精の公爵に育てられたともいう。そのあたり、ラグナネイブルの王宮にも稀な、本物の貴公子なのかもしれない。

だから、聞こうと思わなくても、耳に入ってくる。グウェンドリンが語る内容のおおよそは、ミリスもその耳で直に聞かざるを得なかったことだった。

それでも、はじめて聞くかのように、静かに注意深く聞く。聞きながら、湯冷めせぬよう、てきぱきとグウェンドリンの湯化粧を整えていく。バスローブで体をくるまれ、ミリスに促されるまま浴室を出たことにも気づかぬ様子で、グウェンドリンは話し続けていた。さっきまで羞恥に顔も上げられない様子だったのに、いつしか陶然と頬を紅潮させて。

 

「オズワルド様は何もおっしゃらない、と先ほど仰せのようでしたが」

自室のベッドに腰掛けたグウェンドリンが、ややしゃべり疲れて、ミリスが淹れたハーブ茶で唇を湿した隙をみて、ミリスはそっと指摘した。

「いろいろお話しなさっておられるではありませんか?」

控えめな表現であった。

「……そうなんだけど……」

こんな歯切れの悪いグウェンドリンはミリスでさえ見たことがなかった。黙って待っているミリスの前で、何度か大きく息をして、グウェンドリンはようやく続けた。

「オズワルド様は……その……好きとも、愛しているとも、何も……一言も……私のことを……どうお考えなのか……これまで、これまで」

不意に堰が切れたように涙があふれた。言葉が途切れたのは、喉に嗚咽が詰まったからだ。

「指一本」

声が震えた。息が。言葉を整えて、ちゃんと話したい。ミリスに聞いてほしかった。しかし、呼吸をする間さえ計れず、言葉が迸った。

「抱き寄せてくださったのさえ、今日が初めて。私を妻にと、望んでくださったのではなかったのでしょうか。私のためにワーグナーを倒し、オニキス王に誓いを立て、しかし、そんなことは一言もおっしゃって下さらないの。いつも、私は最後に報らされる。私はどうお応えすればいいの。もし、間に合わなかったら。そうよ、もし間に合わなかったら。あの炎の国でも、おぞましい死の女王の国でも。なぜ、オズワルド様は私を置いて行ってしまわれるの!」

喘ぐように声が戦慄き、掠れ、まるで囁くようだったが、しかし、それは悲鳴だった。

「ミリス、ミリス! 私が。……私の思いが、偽物だから!?」

自分の言葉にびくんと怯み、一瞬竦んで、それでもグウェンドリンはなお自分を鞭打つことを止められない。

「 偽りの思いだから、必要とされないの!? 魔王の呪いに縛られた心だから、あの方の妻となれないの!? 私は……あああ、私は!」

この少女は、泣き方さえも知らないのか、と。獣が唸るようなグウェンドリンの泣き声ごと、ミリスはこみ上げるいとしさに突き動かされるままに、抱きしめていた。

「グウェンドリン様! グウェンドリン様!」

小さなミリスのやわらかい毛皮が、新たな堰となって、グウェンドリンの逆巻く何かを包み込むようだった。

少しずつグウェンドリンの呼吸が整い、やがて、小さなしゃくりあげがまばらになってくるころを待って、ミリスはゆっくりと問いかけた。

「オズワルド様がどうお考えなのか、本当にお分かりにならないのですか?」

「……わからないの……」

「そうでしょうか。オズワルド様は、あなた様のご存じの通りの方でございますよ」

「…そう?…では、どうして」

同じ問いが繰り返されるのを、ミリスは朗らかにさえぎった。

「ミリスが良いことを教えて差し上げます」

ふふん、と胸を張ったミリスを、泣きはらした目をあげて、グウェンドリンはきょとんと見つめた。

「いいこと?」

「はい、良いことでございます」

━━なるほど、確かに“何も”おっしゃっておられないのですね。

ミリスはあの銀髪の青年の顔を思い浮かべて、心中一人嘆息した。本当は、夫から伝えられるべきだろうが、おそらく彼はその必要性に生涯気づくまい。

「なんなの、ミリス」

良いことだ、と言っているのに、不安そうにミリスの瞳を覗いてくるグウェンドリンの、瞼の腫れぼったさを見て、ミリスは暗然たる気持ちになった。しまった、お泣かせするのではなかった。今夜までに、ひょっとしたら本当の花嫁となるこの大切な夜までに、この腫れを何とかできるかしら。いいえ、勝算はあるわ。あらゆる秘術を尽くしても、必ずオズワルドの前に世界一美しい花嫁を差し出してみせる。

しかし、オーダイン王が心をあやつる魔法など掛けていなかったと知った時、私のこの愛しい姫はどんな表情をなさるのかしら。

「ねえ、なに、なんなの、ミリス」

想像につい顔のほころぶミリスの前肢を握って、幼児のようにグウェンドリンがたずねる。ミリスにつられたように、不安な面持ちの上に薄く笑みを刷いて。

「オーダイン王がグウェンドリン様に掛けた魔法は、本当は……」

「……本当は?」

「本当は」

「もう、早くお言いなさい、ミリス」

主従は、はからず声を揃えて笑った。ミリスも若い女主人の手を取って。

「グウェンドリン様。本当は━━

 



 

おしまい。

読んでくださってありがとうございました。

グウェンドリン×オズワルド、おれの脳内では、略して鳥オズ。「どりおず」と発音する二人です。

世間では「ポエマー」の称号を恣にしているオズワルド様ですが、おれの中では、むしろ、不器用で、無口なタイプという印象です。確かに、本当に大事なことは、言うべき時にガツンと決める。けど、本当に、大事なこと「だけ」なんだろうナ。

彼が、グウェンドリンの髪や服をほめたり、甘い言葉をささやいているところなんか、想像できないですよ。彼のセリフは、最近の日本語の標準から言えば「はずかしい///」語彙に満ちているかもしれないけど、前後の脈絡から追うと、本当にぎりぎりのところで発せられる必死の叫びなんだ、って感じがする。キザな感じとはほど遠い。

だから、グウェンドリンに届くんじゃないのかな。

 

それでも「大事なこと」も、オズワルド的に大事、ということで、グウェンドリンにとって大事なことには、案外気が回らなかったりしそう。

 

すごく好きな相手を、でも、これは自分の本来の気持ではない、と感じながら思い続けるのは、ものすごくつらそうだ。グウェンドリンはただでさえ、自分の気持ちや、相手の気持ちをうまく掴めない子だから、かなり苦しむんじゃないかな。

おそらく、オズワルド編終章で、彼がグウェンドリンに目覚めの口づけをする前に、ミリスは事情を聞かされているだろう。それで気を利かせて席を外しているんだと思うんですよ。そうでなければ、その前の時みたいに、グウェンドリンを守って離れない筈。

心を縛る魔法が掛かっていないことを知っていて、目の前に苦しむグウェンドリンがいて。オズワルドがあんまりニブチンなら、こっそりミリスが助け船を出してあげるんじゃないかな。

そんな想像をして、このSSを書きました。

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コメント

初めまして。

素敵なお話でした。。ミリス…!!私は古城一家が大好きなので、「タイタニアン ナップルパイ(前編)」でもときめきました。

最強夫妻を見守るブロムとミリスという図式にとことん弱いと気付かされました。。

確かにオズワルド様の台詞は恥ずかしい、けどムダが無い、というか。詩的なのに男らしいというか、不思議に思いつつ赤面しつつ、プレイしてました。

こんにちは、初めまして。
にぽぽだいです。
返事が遅くなって、ごめんなさい。
 
過分のお言葉ありがとうございます。いやぁ、照れるなぁ。それ以上にオズワルド×ブロスに需要があったことにびっくりです。
オーディンスフィアの、端正で、簡潔で、でもその一方で妙に生々しい世界に触れてから、もう一年以上になるわけですが。
この感激を誰かと共有したくて書き始めたブログ、未だに読んで下さる方が居て、嬉しいです。

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